いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

本-小説

『海辺のマンション』前田司郎(著)の感想【熱海のリゾートマンションに隠居する小説家】

熱海のリゾートマンションに隠居する小説家 主人公は、熱海のリゾートマンションで一人暮らししている小説家です。年齢は書かれていませんが、30代か40代だと思われます。 主人公は、働かなくとも暮らしていける資産を持っています。そのためか、仕事への活…

『短冊流し』高橋弘希(著)の感想【離婚前の別居期間】(芥川賞候補)

離婚前の別居期間 主人公は、自分の不貞(不倫)の約1年後、妻から離婚を切り出されます。 5歳の娘がいて、妻は妊娠8か月でした。 妻は、主人公に言います。 半年間の別居をして、その後、正式に離婚したい。 5歳の娘のために、妻は半年間の猶予期間を設けた…

『スイミングスクール』高橋弘希(著)の感想【泣き叫ぶ我が子を見て「ざまぁみろ」】

泣き叫ぶ我が子を見て「ざまぁみろ」 自分の幼い娘が泣いていても、主人公は無言で見つめています。 ふいと口元から、溜息のように、溢れるように、零れました。 「ざまぁみろ――」 無意識にこぼれ出た「ざまぁみろ」は、愛情とは真逆です。 ちょうど帰ってき…

第165回芥川賞受賞作発表、選評(2021年上半期)の感想

第165回芥川賞受賞作発表 2021年7月14日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 ダブル受賞です。 石沢麻依『貝に続く場所にて』 貝に続く場所にて 作者:石沢麻依 講談社 Amazon 李琴峰『彼岸花が咲く島』 彼岸花が咲く島 作者:李 琴峰 文藝春秋 Amazon …

『いい子のあくび』高瀬隼子(著)の感想【歩きスマホに自らぶつかりにいく】

歩きスマホに自らぶつかりにいく 著者の文章は読みやすいです。小説ですがエッセイを読んでいる感じでした。タイトルもエッセイっぽいです。 なぜエッセイっぽいかを考えると、日常生活に起こる、主人公の思考の流れが中心で、極端に描写が少ないからだと思…

『貝に続く場所にて』石沢麻依(著)の感想【震災で行方不明になった知人】(群像新人賞受賞、芥川賞受賞)

震災で行方不明になった知人 主人公の女性は、ドイツのゲッティンゲンに住み、論文を書いています。 そこに、東日本大震災で行方不明になった知人が来ます。大学のときに、主人公と同じ研究室に所属していた男性で、9年ぶりの再会です。 話しぶりや様子を見…

『氷柱の声』くどうれいん(著)の感想【三月十二日を忘れない】(芥川賞候補)

三月十二日を忘れない 主人公の女子高生は、東日本大震災を経験しました。 2011年(被災、美術部での活動) 2016年~2021年(仙台での大学生活、フリーペーパーの編集者) 高校で美術部に所属する主人公は、高校最後のコンクールで「滝」を描きます。主人公…

『水たまりで息をする』高瀬隼子(著)の感想【風呂に入らない夫】(芥川賞候補)

風呂に入らない夫 35歳になる夫は、 風呂には、入らないことにした と、主人公に宣言します。 なぜ、風呂に入らないのか、わかりません。 夫に聞いても、 くさくない? (中略) あとちょっと痛い と、よくわからない理由です。 夫は以前、ずぶ濡れで会社か…

『マジックミラー』千葉雅也(著)の感想【いつか必ず失われる姿】(川端康成文学賞受賞)

いつか必ず失われる姿 マジックミラーは、男性同士の性的交流の場(ハッテン場)の入り口に置かれています。 狭い玄関だった。例によって正面にマジックミラーとスリットがある。どこのハッテン場でも同じだ。 主人公は、新宿二丁目のバーで、過去の出来事を…

『穴』小山田浩子(著)の感想【穴は誰かとつながる存在】(芥川賞受賞)

穴は誰かとつながる存在 主人公は、夫の転勤に伴い、夫の実家の隣に住むことになりました。 田舎で、何もありません。 仕事の求人はなく、主人公は専業主婦になりました。 引っ越しの荷物が片付くと、私は何の予定も宿題もない夏休みを与えられたような気持…

『オーバーヒート』千葉雅也(著)の感想【『デッドライン』のその後】(芥川賞候補)

『デッドライン』のその後 2018年、主人公が大阪に住んでいるときの話がメインです。 主人公は、京都にある大学の准教授ですが、大阪に住んでいます。 長い間東京に住んでいた主人公にとって、 京都は「沈鬱な地方都市」 大阪は「関西の東京」 だと思ったか…

『星月夜』李琴峰(著)の感想【子どもに依存する親】

子どもに依存する親 主人公は台湾人の女性で、日本の大学で日本語を教える非常勤講師です。 教え子の女性に、恋人のような存在がいます。 教え子は新疆ウイグル自治区出身で、日本の大学に通いながら、大学院を目指しています。 教師と教え子が、どのように…

『道化むさぼる揚羽の夢の』金子薫(著)の感想【この世界には道化のみ似つかわしい】

この世界には道化のみ似つかわしい 主人公は、さなぎの形の拘束具に閉じ込められています。 首から上は外に出ていますが、身体は拘束されています。よって、糞尿垂れ流しです。 やっとのことで解放された主人公は、工場で揚羽(アゲハ)蝶を作るよう命じられ…

【芥川賞予想】第165回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2021年上半期)

第165回芥川賞候補作発表 2021年6月11日、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2021年7月14日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 石沢麻依『貝に続く場所にて』(群像6月号) 初の候補入りです。 同作で群…

『生き方の問題』乗代雄介(著)の感想【従弟と従姉の生き方】

従弟と従姉の生き方 24歳の主人公は、2歳年上の従姉に、長文の手紙を出します。 作品全体が主人公の手紙で構成されているので、長い手紙です。 長文の理由を、主人公は、 僕は貴方との数少ない思い出を絞って一滴残らず文字に変え、その冷たい艶を潤滑油に、…

『ポラリスが降り注ぐ夜』李琴峰(著)の感想【新宿二丁目の女性専用バー】(芸術選奨新人賞受賞)

新宿二丁目の女性専用バー 「ポラリス」とは、新宿二丁目にある、女性専用のバーです。 バーに集まるのは、主にレズビアンの女性たち。 本作は、店主やバイト、客の、7人が語り手となります。 本作で特に良いと感じたのは、 同じ言葉が、後になって別の意味…

『スクラップ・アンド・ビルド』羽田圭介(著)の感想【介護する側される側】(芥川賞受賞)

介護する側される側 28歳の主人公は、前職を自主退職し、就職活動をしています。 仕事がなかなか決まらないので、家で資格の勉強をしたり、筋トレをしたりします。 主人公は、 現在無職だが死にたいと思うようなときなど一瞬もおとずれず、生を謳歌したい気…

『死んでいない者』滝口悠生(著)の感想【まともでない奴が魅力的】(芥川賞受賞)

まともでない奴が魅力的 死んでいなくなった男の通夜に、親戚が集まります。 子、孫、ひ孫。以前から関係性のある者もいれば、関係性のない者もいます。 親戚一同を分ける場合に、2通りあるそうです。 上の世代、下の世代(年齢)で分ける まともな奴、まと…

『異類婚姻譚』本谷有希子(著)の感想【家族の末路】(芥川賞受賞)

家族の末路 専業主婦の主人公は、旦那と二人暮らしをしています。 ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。 結婚して4年の主人公は、同じマンションの住人の女性に、旦那と顔が一緒になってきたことを打ち明けます。 女性の知り…

『大阪の西は全部海』岸政彦(著)の感想【思考から離れられる場所】

思考から離れられる場所 大阪に住む40歳過ぎの女性が、一人語りしています。 パートナーらしき男性に語っているようですが、誰なのか、生きている人への語りなのかは不明です。 私はただの地味な、真面目な、あんまりよう喋らんけどひとに気ばっか使ってる事…

『悪い音楽』九段理江(著)の感想【心がない教師】(文學界新人賞受賞)

心がない教師 面白く一気に読みました。 文學界新人賞の受賞作2作のうちの1作ですが、本作の単独受賞で良いと思いました。 中学校の音楽教師である主人公は、男子生徒同士の喧嘩の第一発見者として、話し合いの場に出席させられます。 生徒の親や、教頭など…

『穀雨のころ』青野暦(著)の感想【きわめて優れたスケッチ】(文學界新人賞受賞)

きわめて優れたスケッチ 文學界新人賞には、2817作の応募があったそうです。 受賞作は2817作のうちの2作。ですが選考委員の選評は厳しいです。 『穀雨のころ』は、長嶋有さんだけが○をつけ、その他4人の選考委員は×をつけたそうです。 本作は、高校生の男女4…

【三島賞発表】第34回三島由紀夫賞受賞作発表(2021年)の感想

第34回三島由紀夫賞受賞作 三島賞の受賞作が、2021年5月14日(金)に発表されました。 受賞作は、乗代雄介の『旅する練習』です。 旅する練習 作者:乗代雄介 発売日: 2020/12/28 メディア: Kindle版 感想はこちらです。 『旅する練習』は、前回の芥川賞で候…

『彼岸花が咲く島』李琴峰(著)の感想【正しいと思うことをする】(三島賞候補、芥川賞受賞)

正しいと思うことをする 主人公の少女は、流れ着いた島で、記憶をなくしていました。 島の海岸には、彼岸花が咲いています。 主人公を発見したのは、同い年くらいの少女でした。彼女の話す言葉を、主人公は理解できません。 「ノロ」という役割を担った女性…

『象の皮膚』佐藤厚志(著)の感想【アトピーに苦しむ主人公】(三島賞候補)

アトピーに苦しむ主人公 象の皮膚とは、主人公の皮膚のことです。 硬くごわごわした象の皮膚は私の皮膚に似ている 主人公の女性は、小さい頃からアトピーに苦しんでいます。 同級生にいじめられ、家族からも汚いものを見る目で見られています。 社会人になっ…

『本物の読書家』乗代雄介(著)の感想【ミステリー純文学】(野間文芸新人賞受賞)

ミステリー純文学 主人公は、母から3万円を貰う代わりに、老人ホームへ向かう大叔父に同行します。 経路は上野駅から高萩駅までで、電車で向かいます。 主人公が、遠い親戚の大叔父から、 彼に送り届けてもらいたい と指名されたのは、自分が読書家だからと…

『未熟な同感者』乗代雄介(著)の感想【完全な同感者とは】

完全な同感者とは 本作には3つの軸があります。 主人公である女子大生の生活(主にゼミ活動) サリンジャーをはじめとするゼミの文学講義 講義で参考にする文学の引用 2と3だけでは小説にはならないので、1を書いたという印象があります。 著者が2と3に労力…

『コンビニ人間』村田沙耶香(著)の感想【「○○人間」と言えるもの】(芥川賞受賞)

「○○人間」と言えるもの タイトルにあるとおり、主人公は「コンビニ人間」です。 18歳から18年間、コンビニでバイトし、 コンビニの商品を飲み食いし、 コンビニの勤務に備えて体調を万全にします。 コンビニ中心に生活する人間。当然、無遅刻無欠勤です。 …

『しんせかい』山下澄人(著)の感想【切ない青春小説】(芥川賞受賞)

切ない青春小説 主人公は、著者と同姓同名の山下スミト、19歳です。 主人公は、高校を卒業しアルバイト生活を送っていたところ、家に間違えて配達された新聞で募集記事を見て、応募しました。 俳優と脚本家、脚本家というものが何なのかよくわからなかったの…

『おらおらでひとりいぐも』若竹千佐子(著)の感想【生きた意味、生きる意味】(芥川賞受賞、文藝賞受賞)

生きた意味、生きる意味 主人公は、東北出身の74歳の女性です。 夫に先立たれ、残された家に一人で暮らしています。 一人の老後生活には、寂しさがつきまといますが、主人公はしたたかに生きています。 満二十四のときに故郷を離れてかれこれ五十年、日常会…