いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

芥川賞

『百年泥』石井遊佳(著)の感想【面白いが実態をつかめない】(芥川賞受賞、新潮新人賞受賞)

面白いが実態をつかめない 主人公は、男に借金を背負わされたため、インドで日本語教師をします。 資格も経験もありません。 インドのチェンナイで、若いIT技術者たちに日本語を教えていると、百年に一度の大洪水が起きました。 橋の上に積み上げられる泥。 …

『ニムロッド』上田岳弘(著)の感想【駄目な人間、完全な人間】(芥川賞受賞)

駄目な人間、完全な人間 主人公はサーバーのサポート業務をしていますが、社長から、仮想通貨を採掘する業務を言い渡されます。 新設される課で、主人公は名ばかりの課長昇進ですが、 新しいことに取り組むのは何にせよ楽しみ と、仮想通貨のマイニングに意…

『1R1分34秒』町屋良平(著)の感想【自分の人生と照らし合わさずにはいられない】(芥川賞受賞)

自分の人生と照らし合わさずにはいられない プロボクサーの主人公は、初戦を勝利しましたが、その後は2敗1分けと、負け越しています。 主人公は21歳なので、私としては「まだまだこれから」と思ってしまうのですが、主人公は違います。敗戦後に頭部CTを撮っ…

『火花』又吉直樹(著)の感想②【結果が出ないことに挑戦すること】(芥川賞受賞、三島賞候補)

結果が出ないことに挑戦すること 感想①はこちらです。 主人公も、慕っていた先輩芸人も、大して売れません。 では、芸人をしていたことは無駄だったのでしょうか。 必要がないことを長い時間をかけてやり続けることは怖いだろう? 一度しかない人生において…

『火花』又吉直樹(著)の感想①【人と違うことをせなあかん】(芥川賞受賞、三島賞候補)

人と違うことをせなあかん 売れない若手芸人である主人公が、同じく売れない芸人の先輩を慕います。 二人が出会ったのは、熱海の花火大会です。ビール瓶のケースで作った簡易な舞台で漫才をしますが、主人公のコンビは全くうけません。 先輩は、 仇とったる…

『推し、燃ゆ』宇佐見りん(著)の感想【選評を読んで】(芥川賞受賞)

選評を読んで 芥川賞の選評では、『推し、燃ゆ』の文章力への評価が高いです。 川上弘美さんは、 必要にして充分な描写の力 松浦寿輝さんは、 リズム感の良い文章 的確な筆遣い 小川洋子さんは、 推しとの関係が単なる空想の世界に留まるのではなく、肉体の…

「大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(結果編)」の感想【第164回芥川賞】

番組概要 1月20日(水)に第164回芥川賞受賞作が発表されました。 宇佐見りん『推し、燃ゆ』 推し、燃ゆ 作者:宇佐見りん 発売日: 2020/09/10 メディア: Kindle版 受賞予想した作品の答え合わせや、結果を受けて話すラジオ番組です。 前回(予想編)の放送の…

第164回芥川賞受賞作発表、会見、選評(2020年下半期)の感想

第164回芥川賞受賞作発表 2021年1月20日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 単独受賞です。 宇佐見りん『推し、燃ゆ』 推し、燃ゆ 作者:宇佐見りん 発売日: 2020/09/10 メディア: Kindle版 予想は、はずれました。予想はこちらです。 『推し、燃ゆ』…

【第164回芥川賞予想】「大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(予想編)」の感想

第164回芥川賞予想 1月20日(水)に第164回芥川賞、直木賞が決まります。 「文学賞メッタ斬り!スペシャル」は、受賞作の決定前に、どの作品が受賞するかを予想するラジオ番組です。 予想する方 大森望(書評家、SF翻訳家) 豊崎由美(書評家) 芥川賞候補作…

『小隊』砂川文次(著)の感想【北海道がロシアから攻められる】(芥川賞候補)

北海道がロシアから攻められる 北海道がロシア軍に攻められます。 自衛隊に所属する主人公は、初めての戦闘で、部下を指揮しています。 迫りくるロシア軍に備え、主人公は、民間人の母子に避難するよう働きかけますが、うまくいきません。 どこにも身よりは…

『推し、燃ゆ』宇佐見りん(著)の感想【既視感のある通過儀礼】(芥川賞受賞)

既視感のある通過儀礼 推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。 で始まる物語は、勢いをそのままに、一気に駆け抜けます。 女子高生の主人公は、男女混合アイドルグループに所属する男性が、推しメンです。 推しが炎上し、 謝罪会見 グループ内選挙で推しが最…

『コンジュジ』木崎みつ子(著)の感想【ロックスターの配偶者】(芥川賞候補、すばる文学賞受賞)

ロックスターの配偶者 後半からの熱量が凄い作品です。 すばる文学賞の選評で、川上未映子さんは、 何よりもラストシーン。評価を忘れただ物語を読む者として深く胸打たれた と書いています。 主人公は11歳のとき、イギリスのロックバンドのボーカルに恋をし…

『旅する練習』乗代雄介(著)の感想【忍耐が限界を迎えると】(芥川賞候補、三島賞受賞)

忍耐が限界を迎えると 小説家の主人公と小学6年生の姪の、練習する旅です。 練習は、 主人公:風景を描くこと 姪:サッカーのドリブルとリフティング で、旅は、千葉の我孫子駅から鹿嶋市まで歩くことです。 姪は、歩きながらドリブルし、主人公が風景描写を…

『母影』尾崎世界観(著)の感想【純粋で繊細な言語感覚】(芥川賞候補)

純粋で繊細な言語感覚 主人公は、小学校低学年と思われる女の子です。 女の子の視点で語られるので、文章は柔らかく、読みやすいです。 部屋を区切るカーテンの手前で、主人公は、カーテンに映る影を見ています。 カーテンの向こう側では、母親はマッサージ…

『首里の馬』高山羽根子(著)の感想【にくじゃが まよう からしの答え】(芥川賞受賞、三島賞候補)

選評を読んで 吉田修一さんは芥川賞の選評で、 高山さんはおそらく「孤独な場所」というものが一体どんな場所なのか、その正体を、手を替え品を替え、執拗に真剣に、暴こうとする作家 と書いています。 確かに、『首里の馬』の登場人物はみな孤独な場所にい…

【芥川賞予想】第164回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2020年下半期)

第164回芥川賞候補作発表 2020年12月18日、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2021年1月20日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 宇佐見りん『推し、燃ゆ』(文藝秋季号) 初の候補入りです。 前作『かか…

『破局』遠野遥(著)の感想【選評を読んで】(芥川賞受賞)

選評を読んで 受賞前の芥川賞の予想では、二度読みましたが、受賞はないと予想しました。 そのときの感想はこちらです。 歪な文章は、読んでいて不安になるし、 馬鹿げたような思想の垂れ流しがおかしかったからです。 例えば主人公の、 私はもともと、セッ…

『星の子』今村夏子(著)の感想【いじめられない理由】(野間文芸新人賞受賞、芥川賞候補)

いじめられない理由 主人公は、中学3年生の女子です。 両親は、ある宗教を信仰しています。 きっかけは、主人公が幼い頃にできた湿疹でした。 両親がどんな手を尽くしても、湿疹は良くなりません。 損害保険会社で働く父親が、何気なく同僚に口にしたところ…

『朝顔の日』高橋弘希(著)の感想【死に近づく妻を受け入れる】(芥川賞候補)

死に近づく妻を受け入れる 時代は戦時中、主人公の妻は、若くしてTB(肺結核)にかかります。 高台にある病院に入院しており、医師は、安静が第一だと言います。 安静というのは、身体も、精神も、静けさを保つことです。安静と善き眠り、栄養と清浄なる空気…

『送り火』高橋弘希(著)の感想【無意識な差別意識】(芥川賞受賞)

無意識な差別意識 主人公は、東京から青森に転校した、中学3年生の男子生徒です。 父の転勤による転校で、高校進学のときには、首都圏に戻れる予定です。 つまり青森は、一時的な仮住まいでしかありません。 転校先の中学校には、主人公含め、男性生徒は6人…

『デッドライン』千葉雅也(著)の感想【3回読んでもわからなかった】(野間文芸新人賞受賞、芥川賞候補、三島賞候補)

3回読んでもわからなかった 芥川賞、野間文芸新人賞の候補のときに2回 今回三島賞候補で1回 計3回読みました。 前回読んだときの感想はこちらです。 わからないことが多い小説です。 例えば、主人公が「○○くん」と呼ばれていること。固有名詞が与えられてい…

第163回芥川賞受賞作発表、会見、選評(2020年上半期)の感想

第163回芥川賞受賞作発表 2020年7月15日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 ダブル受賞です。 高山羽根子『首里の馬』 遠野遥『破局』 首里の馬 作者:高山羽根子 発売日: 2020/07/27 メディア: Kindle版 破局 作者:遠野遥 発売日: 2020/07/04 メディ…

【第163回芥川賞予想】「大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(予想編)」の感想

第163回芥川賞予想 7月15日(水)に第163回芥川賞、直木賞が決まります。 「文学賞メッタ斬り!スペシャル」は、受賞作の決定前に、どの作品が受賞するかを予想するラジオ番組です。 予想する方 大森望(書評家、SF翻訳家) 豊崎由美(書評家) 芥川賞候補作…

『首里の馬』高山羽根子(著)の感想【わからないことは怖い】(芥川賞受賞、三島賞候補)

わからないことは怖い 主人公は、中学生のときから10年以上、沖縄の資料館で資料整理をしています。 公的な資料館ではなく、補助金などの収入もありません。 知人が人知れず、情報を蓄積した場所です。 主人公は、資料の整理を無償で行っているため、他に仕…

『アウア・エイジ(Our Age)』岡本学(著)の感想【塔の古い写真】(芥川賞候補)

塔の古い写真 40歳を過ぎた主人公は、離婚し、妻子と会わず数年経っていました。 ただひとり生存を続ける意義を見出せず、毎日を惰性に生きているようなていたらくだった。 そんな主人公のもとに、映画館から封書が届きます。 映写機の葬式をあげるから、ぜ…

『赤い砂を蹴る』石原燃(著)の感想【亡き母の代わりにブラジルへ】(芥川賞候補)

亡き母の代わりにブラジルへ 40代半ばの主人公は、亡き母の代わりに、母の友人とブラジルへ行きます。 母は、友人とブラジルに行くのを楽しみにしていました。 ですが、母に癌が見つかり、旅行どころではなくなりました。 母の友人は、ブラジルで育った日系…

『アキちゃん』三木三奈(著)の感想【大事なことを隠すズルさ】(文學界新人賞受賞、芥川賞候補)

大事なことを隠すズルさ 「アキちゃん」は、主人公が小学5年生のときの同級生です。 大人になった主人公が、過去を回想する形で、物語は進みます。 わたしはアキちゃんが嫌いだった。 (中略) これまでの人生において、これほど真剣に誰かを憎んだことはな…

『破局』遠野遥(著)の感想【不穏な語り手】(芥川賞受賞)

不穏な語り手 「信頼できない語り手」という言葉があります。 主人公の語りが信頼できなく(嘘のようで)、読み手を惑わすことです。 『破局』の語りは、信頼できないというより、読んでいると不穏を感じます。 主人公は、公務員試験を控えている大学4年生で…

【芥川賞予想】第163回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2020年上半期)

第163回芥川賞候補作発表 2020年6月16日、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、7月15日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 『赤い砂を蹴る』石原燃 初の候補入りです。 石原さんは、劇作家で、太宰治のお…

『スティル・ライフ』池澤夏樹(著)の感想【世界はぼくを傷つけることができない】(芥川賞受賞)

世界はぼくを傷つけることができない 主人公は、定職に就かず、アルバイトで生計を立てています。 何をすればいいのだろう。仮に、とりあえず、今のところは、しばらくの間は、アルバイトでもして様子を見る。 淡々とバイトを続けていると、かつてのバイト仲…