いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『居た場所』高山羽根子(著)の感想【考えながらじっくり読書したい人に】(芥川賞候補)

芥川賞候補作(2019年下半期)

 芥川賞は毎回読みますが、候補作は興味をそそられたものだけ読みます。

 本書『居た場所』は、選考委員の小川洋子さんが推していたので気になっていました。

三作に絞られたあとの二回めの投票で、私は『居た場所』に丸をつけた。(選評より)

 三作とは、本書の他に、

 で、どちらも面白かったので、その次点であり、加えて小川洋子さんが推していたので手に取りました。

居た場所

居た場所

 

一言あらすじ

 アジアの小さな島で生まれ、留学生として日本に来て結婚した女性が、初めて一人暮らしした土地(そのアジアの国)を夫と訪れる物語。

 

主要人物

  • 私:実家の工場で働く。小翠の夫。
  • 小翠(シャオツイ):アジアの小さな島で生まれ、島を出て一人暮らし、その後介護の実習留学生として日本に来る。私と結婚。

 

居た場所を訪れたい理由がわからない

 小翠が、初めて一人暮らしをした場所を訪れたい理由がわかりませんでした。

 彼女は一人暮らしをした後、その国から日本にやってきて、工場勤務や介護の仕事をします。結婚もします。

 長年そこを訪れていなかったのにも関わらず、どうして長い年月の後にそういう考えに至ったのかが気になりました。

 

謎めいた不穏な雰囲気

 基本的には現実的な物語(リアリズム)なのですが、日本には存在しないらしいイタチみたいな動物「タッタ」の存在や、身体から出てくる黄緑色の液体、グーグルマップに表示されていない居た場所と、謎めいた雰囲気が漂います。物語の最後に小翠が言った言葉も何かわかりませんでした。

 何だろう、どうなるんだろうと考えながら読み進めることができる一方で、読み終わった後にも、不思議な読書体験が残ります。

 

初めて一人暮らししたことを思い出す

 小翠がなぜそこを訪れたいのかは気になりましたが、私と小翠が一人暮らしした場所をめぐる情景は目に浮かびました。

 読みながら、読者である私に、初めて一人暮らしした場所の風景や感情がよみがえりました。長年住んでいた家を離れ、一緒に暮らしていた家族に別れを告げ、一人暮らしを始める。知っている人は誰もいないという環境に飛び込んだ経験を思い出しました。

 

考えながらじっくり読書したい人におすすめ

 読んでは手を止めて考え、を繰り返したので、160ページの小説にしては読了まで時間がかかりました。

 文章自体は読みやすいのですが、謎があったり読者自身に考えさせたりと、何度も手を止めて考えたくなるので、そういう読書をしたい人におすすめです。

居た場所

居た場所

 

調べた言葉

しかめる:(不機嫌、苦痛で)まゆのあたりにしわを寄せる

強壮剤:栄養を補うための薬