17歳で文藝賞受賞
綿矢りささんは、本書『インストール』で文藝賞(純文学系の新人賞の1つ)を受賞しました。
彼女が世に生み出した最初の作品です。
デビュー作というのは、作家の象徴だと思います。
1500から2000くらいの応募の中から選ばれるのですから、作品の出来はもちろんのこと、「その人が書かずにいられなかった」という強烈な吸引力があります。
それゆえ、新人賞を受賞した作品には、強く引き付けられるのです。
一言あらすじ
親に内緒で学校に行かなくなった女子高校が、同じマンションに住む12歳の男の子と、風俗嬢になりすましてチャットにいそしむ物語。
主要人物
- 私:学校生活や受験勉強に疲れ、何かやりたいことがあるわけでも、いじめられているわけでもないが不登校になった17歳の女子高生。自分の部屋のものをすべて捨てる。
- かずよし:同じマンションに住む12歳の男の子。私が捨てたパソコンを使ってエロチャットを始める。
インストールとは
壊れたパソコンを修復したかずよしが、それを捨てた私に言います。
「ディスクなんかを使ってコンピュータに新しい機能を取り入れることです。でも僕は、インストールをしたんじゃなくて、インストールをしなおした、つまりリセットしただけです。」(p.54)
タイトルにもあるとおり、不登校という行為で一度止まってしまった私が修復に向かう、ということにかかっています。
かずよしは、パソコンも人もインストールしなおしてしまう、ませた小学生です。
言葉が美しい音楽のように使われている
解説で高橋源一郎さんはこう述べます。
『インスト―ル』で、もっとも重要なのは、言葉が(日本語が)、ほとんど美しい音楽のように使われている(と感じられる)ことだ。それは、つまり、この小説が、「完璧な日本語」で書かれているということだ。(p.178)
美しい音楽のように使われている言葉は、完璧な日本語というわけです。高橋さんは、新人の、17歳のデビュー作をここまで褒めます。
実際、読んでいる間、すらすらと心地よい感覚に浸ることができました。それは音楽のように流れる文章だったからです。
音楽のように流れる文章を読みたい人におすすめ
純文学の作品だけあって、物語性よりも文章そのものに魅力があります。
文章が音楽を奏でているような、心地よい感覚に浸りたい人におすすめです。
調べた言葉
健やか:体が丈夫であること
健気:しっかりして強い
コケティッシュ:なまめかしいこと
時季:盛んな季節
いそしむ:勤め励む
アンニュイ:気だるい感じ
たゆたう:ゆらゆらと揺れ動く
生粋:混じり気のないこと
とつとつと:口ごもりながら
あだっぽい:なまめいて色っぽい
せせら笑う:ばかにして笑う
躍起:あせってむきになること
いじましい:意地汚くせせこましい
手管:人をだまし、あやつる手段
すすける:古くなってうす汚れる