デビュー作で芥川賞
『蛇にピアス』は、綿矢りさ『蹴りたい背中』とダブルで芥川賞を受賞しました。
綿矢さんは2作目であったのに対し、金原ひとみさんはデビュー作での受賞です。
解説の村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』もデビュー作で芥川賞を受賞した作品で、アルコールや暴力、アブノーマルなセックスなど、似通った雰囲気があります。
一言あらすじ
舌ピアスをし、刺青をし、サディスティックなセックスをする未成年の女性が、自分のために他人を殴る男と自分に殺意を持った男の二人と関係を持つ物語。
主要人物
- 私:19歳のフリーター女性。アマの影響で舌にピアスを開ける。ピアスの穴を大きくしていくことや、麒麟の刺青に興味を持つ。アルコール中毒。
- アマ:私の恋人、18歳。私をアマやかす。恋人である私が街中で絡まれると、相手を殺すほど殴りつける。
- シバさん:彫り師。私をシバく。恋人である私に殺意を抱き、サディスティックなセックスをする。
蛇にピアスとは
タイトルの意味についてです。アマの描写に蛇の文言があります。
彼の舌は本当に蛇の舌のように、先が二つに割れていた。私がその舌に見とれていると、彼は右の舌だけ器用に持ち上げて、二股の舌の間にタバコをはさんだ。(p.5)
主人公の私はこの舌に魅力を感じ、自分もしてみたいと思います。「蛇」は二つに割った舌、「ピアス」は舌に開けたピアスを意味しているように読めます。
なぜ生きる気力を失ってしまうのか
ピアスの穴を大きくしていき、背中に刺青をしたすると、私は生きる気力を失います。ビールとつまみしか口にせず、やせ細っていきます。
手に入れたかったものを手に入れた途端、このように気力を失ってしまうのはなぜでしょう。
所有というのは悲しい。手に入れるという事は、自分の物であるという事が当たり前になるという事。手に入れる前の興奮や欲求はもうそこにない。(p.76)
私がやりたいのは舌と刺青だけ(p.24)
目標を設定してそれに向かって進むことは、充実感があります。
主人公の私は、欲しいと思ったものを手に入れる能力に長けています。舌ピアスや龍と麒麟の刺繍だけでなく、龍に象徴されるアマ、麒麟に象徴されるシバさんも手に入れます。
欲しいものを手に入れてしまったから、生きていく気力を失ったのかもしれません。
生きるのがしんどい人におすすめ
仕事がなくアルコール中毒で、性の道具のように扱われる主人公の私。
それでも生きています。目標があるわけでもなく、ただ生きているのです。
共感する作品ではないと思いますが、こういう人も生きている、生きていていいんだと思わせてくれます。
調べた言葉
なぶる:もてあそぶ
肩をすくめる:やれやれと落胆した気持ち
慈しむ:愛でる
画竜点睛:物事を完成させる最後の仕上げ
白々しい:嘘であることが見え透いていること
おこがましい:図々しい