芥川賞候補作
受賞作は読むのですが、候補作はあまり手にとりません。
しかし、受賞作や候補作が面白かったので手を伸ばしました。
受賞作、候補作はこちらです。(太字は読了)
- 高橋弘希『送り火』(受賞)
- 古谷田奈月『風下の朱』
- 北条裕子『美しい顔』
- 町屋良平『しき』
- 松尾スズキ『もう「はい」としか言えない』
一言あらすじ
部員3人の野球部に入部した女子大生が、健康と野球に取りつかれる部長に魅せられながら、野球をする物語。
主要人物
- 私:大学一年生。高校まではソフトボール部。
- 侑希美:野球部部長。4番キャッチャー。ソフトボール部を嫌い、健康な選手を勧誘したい。
- 杏奈:野球部所属。2番ファースト。
- 潤子:野球部所属。3番サード。
- 遥:ソフトボール部部長。
先輩しかいない環境
他に新入部員が加入することはなく先輩しかいない環境で、私は考えます。
誰かのお気に入りになることで誰かが不満を募らせることのないよう、私は三人に対して平等に従順に、平等に素っ気なく接した。(p.146)
誰かと仲良くすると、他の誰かとは必然的に距離が生まれます。
皆と平等に距離を取るのは賢いです。
部員の条件は健康であること
部員が集まらないので、野球の試合はできません。何で集まらないのかというと、部員の勧誘に、部長がこだわるからです。
私たちに必要なのは健康な選手よ。経験もセンスも二の次。健康であることは、最低限の条件であると同時にそれ以上はない素質なんだから(p.147)
部員を探しますが、なかなか当てはまる人がいません。
健康な女の体には常に風が通ってるから、濃い瘴気の中にいるとそこだけぽっかり穴が開いているみたいに感じるの。(p.152)
部長からは、ソフトボール部に近づかないようにとも言われます。
ただ野球選手になりたい部長
部長に連れられて、社会人野球(男性)の練習を見に市民球場へ行きます。
部長には憧れの投手がいました。あの選手のように、部長は野球がやりたい。きっとその投手の球を受けたい。
野球への一途さは、健康に通じたものでした。
純粋に野球がしたいのに、女性の身体のしくみから、ベストコンディションを出せないときがある。部長からすると、女性は健康ではありません。
部長が目の敵にするソフトボール部の部長は言います。
大切なのはベストコンディションを保ち続けることじゃない。そうじゃなくて、どんなに頑張っても必ず起きる体の不調と、うまく付き合っていくことよ。それがスポーツ選手の仕事。 打てないときがあってもいいの。あんたが打てないときは、私が打つから(p.190)
どちらも言い分があるだけに、考えさせます。
調べた言葉
不遜:謙遜でないこと
底意:心の底にある考え
壮観:規模が大きくすばらしいこと
証左:証拠
瘴気:熱病を引き起こす病気
純然:まじりけのないさま