野間文芸新人賞がきっかけ
普段あまり読まない新人賞ですが、2018年の受賞作、候補作が面白かったので、手を伸ばすことにしました。
受賞作、候補作はこちらです。(太字は読了)
- 金子薫『双子は驢馬に跨がって』(受賞)
- 乗代雄介『本物の読書家』(受賞)
- 木村紅美『雪子さんの足音』
- 古谷田奈月『無限の玄/風下の朱』
- 町屋良平『しき』
一言あらすじ
大家さんの死をきっかけに、大学生時代に交流していた大家さんとの思い出を回想する物語。
主要人物
- 薫:小説家志望の大学3年生。月光荘というアパ―トに住む。
- 雪子さん:月光荘の大家。夫と息子に先立たれ、住人と交流を図ろうとする。
- 小野田:月光荘の住人。薫と同い年の社会人。
大家さんから夕食会のお誘い
大家さんである雪子さんから、薫に手紙が届きます。
こんど我が家での夕食会にいらっしゃいませんか。同封したカードにご都合のつく日を書いてわたくしのポストに投函していただけると嬉しいです。ご興味がなければ、無理に誘うものではありませんので、手紙ごとお返し下さい。(p.6)
こんな手紙が自分のポストに入っていたらと思うと、ぞっとします。
無理に誘うものではないと書かれていますが、日程が決まっていないお誘いって断りづらいですよね。決まっていたら「その日は予定が……」と言えるのに。
携帯もインターネットもない時代の物語とはいえ、こういった交流って当時はあったのでしょうか。現代では考えられません。
親切とおせっかいの境
薫が夕食会に参加した後も、雪子さんから手紙が届きます。
以前より痩せてきたようで心配しております。試験勉強も小説の執筆も体力が必要でしょうから、これで精のつくものでも食べてください。(p.27)
封筒には一万円が入っていました。
金がない大学生の薫にとって、食事やお金を提供してくれるのは節約になりますが、この距離感に嫌気がさしてしまいます。
端から見れば、雪子さんの行為は親切です。しかしそれは同時におせっかいでもあり、その境は受け手にゆだねられます。
さびしいときには親切だと思えても、忙しかったり別のことに目が向いていたりすると、おせっかいだと切り捨てたくなってしまうものです。
人との距離感を考えたい人におすすめ
雪子さんはぶれません。自分のしたいと思うことを相手にしてあげます。
相手がはっきりノーと言ってきた場合には、引き下がります。
人との距離感の取り方に困っている人、一歩踏み込みたいけどためらっている人におすすめです。
受け手によって、ありがたく思える人もいるんですから。気にしすぎるのはよくありません。
調べた言葉
反芻:繰り返し考え、味わうこと
気重:気分が沈むこと
いそいそ:心が浮きたって動作が軽やかなこと
胴間声:太くて濁った声
健啖家:大食いの人
しとやか:上品なこと
鼻っ柱:張り合う意気
しなやか:なめらかで上品なこと