数学嫌いの方にもおすすめ
タイトルに「数式」「博士」が入っていますが、数学嫌いの方、どうか敬遠しないでください。
- 阪神タイガース(野球)が好き
- 子どもが好き
- きれいな文章が好き
あてはまる人は必読です。
解説で数学者の藤原正彦さんは言います。
純文学、エンターテインメントなどというつまらぬジャンル分けを豪快に粉砕している。文学には、よい文学とそうでない文学しかない、ということを無言のうちに証明している。
小川洋子さんは、芥川賞の選考委員なので、純文学系の作家でしょうが、そうしたジャンル分けなど関係ないと思わされます。
一言あらすじ
80分しか記憶がもたない数学者、そこで働く家政婦と10歳の息子の3人が、数式と阪神タイガースを通じて交流する物語。
主要人物
- 私:博士の家の家政婦
- 博士:80分しか記憶がもたない数学者
- ルート:私の息子。頭が平べったいので博士にルートと名付けられた
子どもを愛し、褒め上手な博士
この作品の良さは「博士の魅力」です。
博士は、静けさを好み、人ごみを嫌います。外に出ず一日中部屋で数学と向き合っています。
家政婦の主人公が、昼ごはんに何が食べたいか尋ねると、怒り出す有様です。
そんな人間のどこに魅力があるのでしょうか。
以下2点です。
- 数学より子どもを重視
- 些細なことでも褒める
博士は、子どもをとにかく愛します。
主人公に10歳の息子がいると知ると、10の数字から発想される数学的知識ではなく、子どもの心配をします。
子どもが1から10を足す簡単な計算方法がわかったとき、何かの賞を獲ったかのように立ち上がって大きな拍手をします。
数字から発想される芸術
博士は数字を見聞きすると、何を意味するか語ります。
一つに友愛数があります。友愛数とは、約数を足すと互いの数になる数字です。(220と284は、約数を足すと互いの数字になるので友愛数)
それが芸術的で、ありふれた数字に特別の意味を付与することで、愛着を抱かせます。どんな数字にも意味があるのでしょう。
阪神が入ることでほっこりする
博士とルートは阪神タイガースのファンです。
博士の記憶は1975年で止まっています。
- 「江夏は投げないのかな」と言う博士に、ルートと私は「江夏は今日投げないよ」と返す
- 3人で野球観戦に行く
- 実況中継を聞くためにラジオ修理
- 博士へのプレゼントのために江夏のカードを探す
物語に阪神タイガースが加わることで、温かくなります。
せつないけど心が温まる
80分しか記憶がもたない74歳の数学者と聞くと、明るそうな話ではないですよね。
確かにせつなくはありますが、人との交流を丁寧に描いている本作を読むと、心が温まります。
小川さんの文章は、あまりにもきれいなので、ふと泣けてしまいます。