いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いています。

さらりと読めるが、ざらりと残る 今村夏子『むらさきのスカートの女』(芥川賞受賞)の感想(1000字)

さらりと読めるが、ざらりと残る

 今村夏子さんの作品は読みやすいです。

 シンプルな言葉と気になる展開が、先へと読ませます。

 ですが、読みやすい=あっさり、ではありません。

 読み終わった後に起こる感情は、以下のようなものです。

  1. 結局何の話だったの?
  2. よく考えると怖い
  3. これは今村作品でしか体感できない

 さらりと読めますが、ざらりと残るのです。物語の世界が頭にこびりつきます。

 他の作家さんの作品にはない感触があります。

 以下に興味がある人におすすめです。

  • 読みやすいけど考えさせる
  • 日常に潜む違和感、恐怖
  • 信頼できない語り手
むらさきのスカートの女

むらさきのスカートの女

 

一言あらすじ

 主人公は、むらさきのスカートの女と友達になりたいが、話しかけることはできないので、観察している。

 

主要人物

  • わたし:むらさきのスカートの女を観察する。黄色いカーディガンの女
  • むらさきのスカートの女

 

むらさきのスカートの女とは

うちの近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいる。いつもむらさき色のスカートを穿いているのでそう呼ばれているのだ。

(中略)

頬のあたりにシミがぽつぽつと浮き出ているし、肩まで伸びた黒髪はツヤがなくてパサパサしている。(p.8)

 日常でちょっと目立つ人がいたら、目を引きますよね。

 むらさき色のスカートの女は、その地域では誰もが知っている女性です。

 主人公のわたしは、この女性を観察しています

 公園には、この女性の定位置のベンチがあります。彼女以外が座るようなら、主人公はその人をどかしさえします。

 

主人公はなぜ観察するのか

 むらさきのスカートの女の生活が、主人公の視点で明らかになるのですが、一つ疑問が出てきます。

 なぜ主人公はこの女性を観察するのか、です。

  • むらさき色のスカートを穿く
  • 行きつけのパン屋でクリームパンを買う
  • 公園の定位置のベンチに座り、パンを食べる

 このような平凡な日常を送る女性を見続けるのは、なぜでしょう。

 むらさき色のスカートの女にあって、主人公にないものは、誰かに観察されていることです。

 主人公は誰からも見られていません。会話の中心にはならず、友人や恋人がいるわけでもありません。

 一方、むらさき色のスカートの女は、同僚の噂になったり、上司と恋仲になったり、悪の権化にされたり、子供からちょっかいを掛けられたりします。

 誰からも見られない主人公は、むらさきのスカートの女がうらやましいのでしょう。

 

読者である私は奇妙か

 主人公を見ている人は誰もいないと言いましたが、一人だけいます

 読者である私です。

 人の生活を観察する主人公を奇妙だと思うなら、その主人公の生活を読む(観察する)私も奇妙なのでしょうか

 ざらりとした感触が残ります。

むらさきのスカートの女

むらさきのスカートの女

 

調べた言葉

しずしず:動きが静かでゆっくりしているさま

のさばる:勝手気ままに振舞う

 

第161回の芥川賞候補作についてはこちらです。