教科書に載ってほしい
教科書に載ったら、国語の問いが変わるかもしれません。
国語の問いには、回答の正誤を論理的に判定できないものがあります。
例えば、以下のようなものです。
- この文章に託されている、戦争についての作者の姿勢はどのようなものか
- 月の満ち欠けについての作者の描写は、どんな象徴的効果を生んでいるか
主人公は疑問を抱きます。
月の満ち欠けについての描写はあくまで月の満ち欠けについての描写であって、どのような象徴的効果も生んではいない、という解答だって、間違っているとは誰にも断言できないはずだ。(p.27)
解釈が可能な限り、読者は多様な読み方ができます。
ですが、国語の問いは違います。
以下に興味がある人におすすめです。
- 村上春樹さんの体験らしさ(時代、地域、職業が類似)
- 国語の問い
- 書かれたものの読み方=テクスト論
一言あらすじ
高校生のとき、ビートルズのレコードを持った美しい女性を校舎で見かけた。二度と会えず、別の女性と付き合った。彼女の家を訪れると、彼女の兄しかおらず、彼と会話して過ごす。
主要人物
- 僕:主人公。作者(村上春樹)を思わせる
- 兄:彼女の兄。記憶をときどき喪失してしまう
世界的な出来事よりも個人的な出来事
主人公は、ビートルズのレコードを持った美しい女の子に目を奪われます。
社会的に熱狂されているビートルズにではなく、その子に惹かれます。
出会った瞬間、主人公の耳に鐘の音が聞こえました。
しかし、その女の子とは二度と会うことなく、別の女性と付き合います。
一九六五年に起こった最も重要な出来事は、(中略)僕に一人のガールフレンドできたことだった。(p.16)
付き合った女性からは、鐘の音は聞こえません。
ですが、世の中の大きな出来事(ベトナム戦争、イリオモテヤマネコの存在の発見)より、重要なことでした。
世の中のニュースは、基本的に他人事です。会話の話題になりますが、大抵どうすることもできません。
重要なのは個人です。
最後の問い
彼女の家で、主人公は彼女の兄と会います。彼はときどき記憶喪失するという病気で、家にこもりがちでした。
彼女は自分の兄の話をしないので、知りませんでした。
月日は経ち、偶然再会します。彼の病気は治っていて、働いていました。
しかし彼女は……。
最後に、作者である村上さんは問いを出します。
二度にわたる二人の出会いと会話は、彼らの人生のどのような要素を象徴的に示唆していたのでしょう?(p.44)
重要なのは、社会ではなく個人です。
それらしい作者の主張や象徴的効果を理解するより、読者である「あなた」がどう感じたかです。
自由な読みを許してもらえる作品です。
教科書に載ってほしいという点で、村上さんの『沈黙』を思い出しました。人から誰かの話を聞いたときの対応が書かれています。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 全国学校図書館協議会
- 発売日: 1993/03/01
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 53回
- この商品を含むブログ (48件) を見る