いっちの1000字読書感想文

平成生まれの社会人。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『鳥打ちも夜更けには』金子薫(著)の感想【やりたくない仕事を辞めた先に】

仕事のスタンスが異なる3人

 やりたくない仕事、辞めますか? 続けますか?

 舞台は、日本ではないどこかの島。

 「架空の港町」と呼ばれる島で、「鳥打ち」という仕事をしている3人がいます。

 鳥打ちは、観光資源の蝶を守るため、鳥を駆除します。

 草むらに隠れ、毒塗りの吹き矢で鳥を狙います。

 仕事のスタンスは三者三葉です。

  • 仕事に疑念に抱き、働けなくなる者
  • 仕事に没頭する者
  • どっちつかずの者(仕事以外に別の楽しみを見出す者)

 メインは、仕事に疑念を抱く者についてです。

 架空の島の、架空のお話なのですが、現実社会とリンクしているようでなりません。

 以下に興味がある人におすすめです。

  • やりたくない仕事を続ける
  • 独自の世界観
  • 幻想的な映像が浮かぶ文章
鳥打ちも夜更けには

鳥打ちも夜更けには

 

一言あらすじ

 ある鳥打ちは、自分の仕事に疑念を抱く。仕事を辞め、町を出て、自分のやりたいことをし始める。

 

主要人物

  • 天野:鳥打ちの仕事に疑念を抱き、鳥を駆除できなくなった
  • 沖山:鳥打ち。丁寧に日記をつける。料理をよく作る
  • 保田:鳥打ち。仕事に没頭する

 

鳥打ちの価値

 鳥打ちの仕事は、観光資源の蝶を守るため、10年前にできました。

 沖山は転職を考えていましたが、望みは薄いです。

転職がほとんど不可能となった理由には、鳥を毒矢で殺す技術など、そもそもいかなる職業に応用できるというのか、という問題はともかくとして、鳥打ちの仕事がここ数年、港町の住民から白い目を向けられ始めたこととも関係している。(p.10) 

  • 鳥打ちはつぶしが効かない
  • 観光事業がうまくいかないため、鳥打ちは住民から嫌われている

 社会に役立っていない仕事(鳥打ち)に、価値はあるのでしょうか

 天野は鳥を駆除できなくなってしまいます。(沖山は仕事を続けます)

 

やりたいことを貫いた人間

 鳥打ちの仕事ができなくなった天野は、リュトリュクという町に移り住みます。

リュトリュクの人々は朝になると、通りの突き当たりにある職業安定所へと出かけていき、職員たちと話し合い、その日の「職業」を決める。(p.97)

 その町では、人々が毎日違う仕事をします。仕事にあぶれた者は、野良犬や野良猫、猿になって、観光客から餌をもらって生きています。

 どんな仕事も替えが効くのです。仕事がないなら、人から恵んでもらって生きていけばいいんです。

天野がつくり上げようとしていたのは、海鳥たちが自由に蝶や幼虫を啄める楽園であった。(p.104)

 天野のやりたいことは、鳥打ちの仕事とは真逆のことでした。

 それは許されることなのでしょうか。

 やりたくない仕事を辞め、やりたいことを貫いた人間が描かれています。

鳥打ちも夜更けには

鳥打ちも夜更けには

 

調べた言葉

絵空事:現実にはありそうもない作りごと

甘受:やむを得ないものとして甘んじて受け入れること

遍く(あまねく):広く全体に及ぶさま

放擲(ほうてき):何もしないで放っておくこと

木枯らし:秋の末から冬の初めにかけて吹く、強く冷たい風

謀反(むほん):国家、あるいは政権や権力者に背くこと