コミュニケーションが苦手な兄弟
小鳥の小父さん(おじさん)と呼ばれる人は、毎朝幼稚園の鳥小屋を掃除します。
彼は近所の幼稚園の小鳥たちを、二十年近くに亘って世話していた時期があった。誰に頼まれたわけでもない、全くの奉仕活動だった。その間にいつしか、彼は小鳥の小父さんになっていた。(p.8)
小父さんは、お兄さんと二人暮らしです。
お兄さんは日本語ではない、独自の言葉を話します。
お兄さんが自分で編み出した言葉で喋りはじめたのは、十一歳を過ぎたあたりの頃だった(p.22)
唯一、お兄さんの言葉を理解できる人は、小鳥の小父さんでした。
一日中家にいるお兄さんと、ゲストハウスの管理人として働く小鳥の小父さんは、人とうまくコミュニケーションをとれません。
二人が愛したのは、小鳥でした。
以下に興味がある人におすすめです。
- 社会になじめない
- コミュニケーションが苦手
- 小鳥
- 小さな話
一言あらすじ
小鳥の小父さんとそのお兄さんは、ひっそり生きる。コミュニケーションが苦手な小父さんと、独自の言葉を話すため周りに理解されないお兄さんの一生を描く。
主要人物
- 小鳥の小父さん:鳥小屋を世話していたらそう呼ばれるようになった
- お兄さん:独自の言葉を話す。唯一理解できる人は弟(小鳥の小父さん)
取り繕えない人
解説の小野正嗣さんの言葉です。
ただ生きているだけなのに、二人は社会の周縁に追いやられていく。(中略)まさに「取り繕えない人たち」なのだ。(p.310)
お兄さんは、小父さんの世話なしには生きられません。小鳥のような存在です。
小父さんは、お兄さんの世話が生活の中心です。
二人は寄り添って生きています。
小父さんにとっても、お兄さんの存在は生きるのに必要です。
お兄さんの死は、小父さんの役割を奪います。
ですが小父さんは、悲しみに暮れるのではなく、ゲストハウスでの労働や鳥小屋の世話など、自分の役割を全うします。
小父さんは社会の周縁にいるかもしれませんが、しっかりと生きています。
ただコミュニケーションが苦手なだけです。
一歩踏み出そうとするとうまくいかないけど
小野さんの言葉どおり、小父さんは、ただ生きているだけなのに追いやられています。
余計な疑いを掛けられたり、期待どおりにならなかったりします。
一歩踏み出そうとしますが、うまくいかないことばかりです。
では、お兄さんのように家にこもってれば良かったのでしょうか。
そうではないでしょう。
一歩踏み出すことで辛いことや悲しいことがありましたが、心が動く体験も多くありました。
小鳥の小父さんは幸せだったと思います。
今日外に出たら、鳥の鳴き声がよく聞こえました。
調べた言葉
糾明:犯罪・不正などを問いただして不明の点をはっきりさせること
素封家:商業による蓄財などをもとに財を築いた人
安普請(やすぶしん):お金をかけず家を建てること
悠然:ゆったりと落ち着いているさま
地鳴き:鳥の日常的で単純な鳴き方
さえずり:繁殖期における雄鳥の鳴き声