紹介する52作品に共通するのは「文学遺産」
作家の小川洋子さんが、52の文学作品を紹介します。
外国文学も日本文学も、恋愛小説も絵本も、古典も現代作家も、分け隔てがありません。共通しているのは、文学遺産として長く読み継がれてゆく本、というただその一点のみです。(p.4)
小川さんが「文学遺産として長く読み継がれてゆく」作品を選び、感想を添えます。
私がすでに読んでいる作品は、「そういう読み方があったのか」と感心(読み方の甘さを反省)しました。
読んでいない作品は、「早く読んでみたい」と思わせられるものばかりです。
あなたの読んでいない名作は、小川さんが読んでいます。
この本を読めば、読みたい一冊が必ず見つかります。
また、読書感想文を書こうとしている学生さんにもおすすめです。
この本を読んだ感想でも、この本で紹介されている作品を読んで感想を書くのでもよいかと思います。
必ず読みたい(読み返したい)と思った本
- 村上春樹『風の歌を聴け』
- ミヒャエル・エンデ『モモ』
- 田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』
- 中上健次『十九才の地図』
- 佐野祥子『100万回生きたねこ』
傷を言葉で表わさない
小川さんは村上春樹『風の歌を聴け』の紹介で、村上作品の新しさを「傷は言葉で書きあらわせないということを書いている点」だと言います。
心の傷との葛藤を描くことこそが文学だと思っていました。その傷とどう向き合うか、どう克服してゆくかという問題と格闘することが文学だと。ところが村上さんは、そんなことは言葉では書けないのだという大前提に立って書いている。(p.111)
問題がそのまま残ったまま物語が終わるというのは、新鮮だったそうです。
登場人物たちが心の傷を抱えていないわけではありません。それを書かない代わりに、別の場面を書いているというのです。
3回は読んでいますが、他の読み方もある作品だとわかったので、再読します。
感想はこちらです。
時間の流れに疲れたら
小川さんがミヒャエル・エンデ『モモ』を読んだのは、学生から社会人になり自由だった時間を奪われ、自分らしさを失っていくような心がすさんだ時期だったそうです。
「光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのとおなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある」(p.107)
この作品は、盗まれた時間を取り戻そうとする話です。
私も社会人ですので、学生時代と比べると自由に使える時間がありません。
学生時代の夏休みが始まったときの全能感は今でも思い出せますが、もう二度と体験することはできません。
本書を読むことで、その体験を味わえるかもしれないと思いました。
調べた言葉
克明:細かなところまで念を入れること
淫靡(いんび):みだらな感じがすること
結実:よい結果が得られること
哀切:あわれでもの悲しいこと
慎ましい:控えめで物静かであること
時世(じせい):この世に別れを告げること
つましい:質素な