デビューから『騎士団長殺し』まで
村上春樹さんへのロングインタビューです。
デビュー作『風の歌を聴け』から作品を振り返りつつ、小説の持つ力について語ります。
『騎士団長殺し』の話がメインですが、読んでいなくても問題ありません。
作品の内容よりも、小説を書く姿勢や物語の力についてがメインです。
描写は得意じゃない
描写というのは、ずいぶん手を入れて書くんです。会話は、一回書いたらほとんど手を入れない。描写に関しては、あんまり得意じゃないから、一生懸命何度も何度も書き直すんです。(p.16)
驚きなのが、村上さんが描写を得意だと思っていないことです。
村上作品は描写が素晴らしいです。読んでいて画がはっきりと浮かびますし、流れる文章には心地よさがあります。
情景が目に焼き付いているのは、『ねじまき鳥クロニクル』で人の皮を剥ぐシーンです。果物の皮をむくようにナイフで人間の皮を剥ぐ描写が痛々しいです。
そんな描写の裏には、何度にもわたる書き直しがあったのですね。
逆に、男性の会話は気障な感じがします。
女性の会話は「~よ」「~だわ」という、最近だとあまり聞かない語尾が目立つので、現実感が薄れます。
小説で目指すこと
小説を書き出した頃からフィジカルな効果というものをすごく目指していました。例えば『風の歌を聴け』(一九七九年)の読後に「ビールがすごく飲みたくなった」という人が多かった。それは僕にとってとても嬉しいことでした。(p.17)
確かに、初期の村上作品を読むとビールが飲みたくなります。登場人物がうまそうに飲むのです。
村上さんは、物語を通じて、読者にじかに伝えることを大切にしています。
読んでいると、いつの間にか主人公に同化しています。まるで自分が小説内の出来事を体験している感覚になります。
小説を読む理由
言葉を通じて、架空のものを実際あった出来事のように人に体験させるというのは、小説にしかできないことです。そういう物語を経験するかしないかで、人の考え方や、世界の見え方は違ってくるはずです。(p.20)
小説を読んでいる理由がはっきりしました。
物語を体験することで、人の考え方や、世界の見え方を自分の中に取り入れることができるからです。
現実に体験できることは、たかが知れています。
ですが小説を読むことで、多様な人の考えを取り入れ、行ったことのない世界を旅することができます。
その体験は、自分の人生に還元できるかどうかは別として、他では決して味わえませんし、何より楽しいです。
文學界9月号は増刷されたらしいです。(又吉直樹『火花』掲載号以来、2度目)