いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『ぼくはきっとやさしい』町屋良平(著)の感想【人とうまく話せない】

人とうまく話せない

 突然、海や川に落とされたことはありますか

 主人公の男の子は、付き合った女の子に、海に落とされます。

 インドで仲良くなった女の子には、川に落とされます。

 弟の婚約相手には、ストーカー扱いをされ、内容証明が届きます。

 主人公は、人とうまく話せず、日記を書いたり、仏教やヨガにはまったりします。

テキストのなかでは瞑想に生き、瞑想のなかでは現実に生き、現実のなかではテキストに生きる。その三つの円の真ん中で「ぼく」がぼくの人生を語っている。(p.101)

 話すことが苦手で、独りよがりで自分の思いにふけっている……。

 痛いなあ、と思うのですが、私にも似たような部分があったと昔を思い出しました。

 以下に興味がある人におすすめです。

  • やわらかい文体
  • 話すのが苦手
  • 思いにふけり日記を書くのが好き
  • ナルシシズム
ぼくはきっとやさしい

ぼくはきっとやさしい

 

一言あらすじ

 母に男メンヘラと言われた主人公は、良い意味でピュア、悪い意味で独りよがり。そんな彼は、女の子に海に落とされ、川に落とされ、ストーカー扱いされる。そんなときも、親友はそばにいた。

 

主要人物

  • 岳文:ピュアで独りよがりな主人公
  • 照雪:岳文の親友。大学で知り合った

 

やさしいの意味

 岳文はインドで出会った女の子と意気投合し、二人で行動します。

わたしは男らしいよりもやさしいを優先する。そりゃときどきは、男らしいの本能がほしいときもある。わたしも女らしいの本能を欲する。だけど、わたしの個性としてわたしは、男女の男らしさ、女らしさの本能より、人間としてのやさしいを優先する。 (p.68)

 岳文はやさしいのでしょうか?

 やさしい人が、海に落とされたり(この女の子にはガンジス川に落とされます)、ストーカー扱いされたりするでしょうか。

 タイトルに「きっと」が入っているので、岳文は自信を持ってやさしいと言えないのです。

 やさしいという言葉は、「やさしすぎるから」と相手を傷つけることもあります。

 やさしいから魅力とは限らず、男らしくない、なよなよしてるを言い換えている場合もあります。

 

水に落とされたのは

 岳文は海に、川に、プールにと落とされます。

やっぱりあのときぼくは、じぶんでプールにおちたのだ、とわかった。(中略)能動ではない、意志でもない力、それがぼくを何度も水におとした。(p.132)

 「何度も水におとした」ことから、海にも川にも自分で落ちていたのでしょう。

 では、何のために? わかりません。

 このタイトルは改題されたもので、雑誌掲載時には『水面』でした。

 水面に落とされる主人公と、水面のようにたゆたう心を持つ主人公、ということでしょうか。ある意味、謎解きの作品です。 

ぼくはきっとやさしい

ぼくはきっとやさしい

 

調べた言葉

涼感:涼しそうな感じ

滋味:深い味わい

形象:表に現れている形