人とうまく話せない
突然、海や川に落とされたことはありますか?
主人公の男の子は、付き合った女の子に、海に落とされます。
インドで仲良くなった女の子には、川に落とされます。
弟の婚約相手には、ストーカー扱いをされ、内容証明が届きます。
主人公は、人とうまく話せず、日記を書いたり、仏教やヨガにはまったりします。
テキストのなかでは瞑想に生き、瞑想のなかでは現実に生き、現実のなかではテキストに生きる。その三つの円の真ん中で「ぼく」がぼくの人生を語っている。(p.101)
話すことが苦手で、独りよがりで自分の思いにふけっている……。
痛いなあ、と思うのですが、私にも似たような部分があったと昔を思い出しました。
以下に興味がある人におすすめです。
- やわらかい文体
- 話すのが苦手
- 思いにふけり日記を書くのが好き
- ナルシシズム
一言あらすじ
母に男メンヘラと言われた主人公は、良い意味でピュア、悪い意味で独りよがり。そんな彼は、女の子に海に落とされ、川に落とされ、ストーカー扱いされる。そんなときも、親友はそばにいた。
主要人物
- 岳文:ピュアで独りよがりな主人公
- 照雪:岳文の親友。大学で知り合った
やさしいの意味
岳文はインドで出会った女の子と意気投合し、二人で行動します。
わたしは男らしいよりもやさしいを優先する。そりゃときどきは、男らしいの本能がほしいときもある。わたしも女らしいの本能を欲する。だけど、わたしの個性としてわたしは、男女の男らしさ、女らしさの本能より、人間としてのやさしいを優先する。 (p.68)
岳文はやさしいのでしょうか?
やさしい人が、海に落とされたり(この女の子にはガンジス川に落とされます)、ストーカー扱いされたりするでしょうか。
タイトルに「きっと」が入っているので、岳文は自信を持ってやさしいと言えないのです。
やさしいという言葉は、「やさしすぎるから」と相手を傷つけることもあります。
やさしいから魅力とは限らず、男らしくない、なよなよしてるを言い換えている場合もあります。
水に落とされたのは
岳文は海に、川に、プールにと落とされます。
やっぱりあのときぼくは、じぶんでプールにおちたのだ、とわかった。(中略)能動ではない、意志でもない力、それがぼくを何度も水におとした。(p.132)
「何度も水におとした」ことから、海にも川にも自分で落ちていたのでしょう。
では、何のために? わかりません。
このタイトルは改題されたもので、雑誌掲載時には『水面』でした。
水面に落とされる主人公と、水面のようにたゆたう心を持つ主人公、ということでしょうか。ある意味、謎解きの作品です。
調べた言葉
涼感:涼しそうな感じ
滋味:深い味わい
形象:表に現れている形