村社会に耐える
村社会は人間関係が密です。
それが嫌なら村を出ればいいのですが、主人公は学生なのでそうはいきません。
頭が良いわけでも、スポーツもできるわけでもない女子生徒です。
将来やりたいことがあるわけでもありません。
ただ今の環境が嫌で、逃げ出したいけど逃げ出せない。
死んでほしいほどやっかいなのは、同居している婆です。
婆は、学歴や職業、家柄の優劣などに固執します。
婆の期待する高校に、主人公が願書を出さなかったの叫びです。
あんとき堕ろしてしまえちゅうたんじゃ
どんな状況であっても許される発言ではありません。
そんな婆が死んだことは、冒頭でわかります。
婆が死ぬまでの、村社会で耐えて生きる主人公が描かれます。
以下に興味がある人におすすめです。
- 村社会
- 逃げたいけど逃げられない
- やりたいことや得意なことがない
一言あらすじ
村で生まれた主人公は、勉強もスポーツもいまいちな女子生徒。同居の婆は、学歴や職業、家柄に固執し、嫌みばかり。近くに住む親戚もうっとうしい。そんな環境でも主人公は生きざるを得ない。
主要人物
- 光里(ひかり):主人公。一人称はうち。勉強もスポーツもいまいちな女子生徒
- 婆:学歴、職業、家柄に固執し、嫌みをたらたら言う
- 俊也:光里の4つ上の兄。大学卒業後、家を出る
『人間失格』を読んで自分の方が辛いと思う主人公
光里は太宰治の『人間失格』を読んで、以下のように思います。
うちかていろいろ辛いわ。太宰治て川に飛び込んで死んだんやろ。うちは包丁やってんぞといろいろ思い出して寝るまでずっとどんよりしてた。
『人間失格』を読んで、主人公の辛さに共感を覚える人は多いでしょうが、自分の方が辛いと感じる光里は、よほどでしょう。
「包丁やってんぞ」は、興奮した光里が、自分の腕を切ったことを言っています。
兄の生き方みたいにできたらいいが
村社会で辛いと不平を言っても、何も変わりません。
ではどうすればよいのかというと、 兄である俊也の生き方がヒントになります。
俊也は、勉強して県内トップの高校へ行き、優秀な国立大学へ進学します。
就職で関東へ行き、村からフェードアウトします。
優秀な学校や就職先に受かることで、周囲に何も言わせません。
要は相手のフィールド(学歴、職業の優劣)に乗っかった上で、勝利しています。
ですが、それは簡単なことではありません。
光里はそうはいきません。勉強する集中力は続かず、赤点ばかり。
そんな光里がどう生きるか。
村社会で耐えた光里は、どうか『そこどけあほが通るさかい』と生きてほしいです。
調べた言葉
- 三白眼:黒目が上により、左右と下に白目がある目
前回の芥川賞の候補にしてほしかった作品です。
『そこどけあほが通るさかい』と、奥野紗世子さんの『逃げ水は街の血潮』は、候補に入れてほしかったです。