もっとも醜い女性との交流
彼女は、これまで僕が知り合った中でもっとも醜い女性だった
そう語る主人公は、村上春樹さん本人に限りなく近いです。
- 主人公は50歳過ぎ、
- その醜い女性(名前はF*)は40歳くらい
お互い既婚者ですが、2人で音楽を聴きに行ったり食事をしたりします。
主人公の奥さんは、2人の関係を心配しません。
僕とF*との間に性的な関係が結ばれるかもしれないというような疑念は妻の頭には毛ほども浮かばないようだ。それは彼女の醜さがもたらしたなによりの恩典だった。(p.21)
妻からしたら、醜い女性とは性的関係は結ばれないということなのでしょう。
本当にそうなのか。
外見が醜い人には、性的な感情が生まれないのでしょうか。
以下に興味がある人におすすめです。
- 醜い女性
- 男女間の仲
- 性的感情
- 村上春樹さんの体験らしさ
一言あらすじ
主人公が、今まで会った中でもっとも醜い女性と知り合う。2人でシューマンの「謝肉祭」を聴き歩く。音楽を通じて深く語り合う。
主要人物
- 僕:主人公。50代。作者(村上春樹)を思わせる
- F*:40歳くらい。主人公が出会った中でもっとも醜い女性
性的感情は外見によるものか
性的な感情を抱くのは、相手の外見によるのでしょうか。
主人公がF*と2人で音楽を聴きに行ったり食事をしたりすることに、妻が何も言わないのは、F*の外見が醜いからなのでしょうか。
ですが、F*が醜い女性にはどうも見えません。
彼女が主人公に言います。
私たちは誰しも、多かれ少なかれ仮面をかぶって生きている。まったく仮面をかぶらずにこの熾烈な世界を生きていくことはとてもできないから。(p.23)
まるでF*の醜さは仮面をかぶっているからで、仮面の下には美貌がある、と思わせます。
主人公がF*に性的な感情を抱かないのは、醜いからではありません。
僕が彼女と寝なかったのは――というか、実際にそういう気持ちになれなかったのは――その仮面の美醜よりはむしろ、仮面の奥に用意されているものを目にすることを恐れたからかもしれない。(p.25)
では、仮面の奥の用意されているものとは何でしょう。
仮面の奥に用意されているもの
主人公とF*の関係は、望ましいし、うらやましいです。
- 好きな音楽が同じ
- それを深く語り合える
人と人の間には、一線があります。
わかりやすいものだと、男女の性的関係です。
それは比喩でしかなく、相手が一線を越えたと判断したとき、仮面の奥にある何かを提示されるかもしれません。
すると、共通の趣味を深く語れる関係が変わります。
仮面の奥に用意されている何かは、悪いものかもしれません。
主人公はそれを恐れました。
恐れた結果どうなったのか、気になる方はぜひ読んでみてください。
調べた言葉
- 能弁:上手にしゃべること
- 魑魅魍魎(ちみもうりょう):さまざまのばけもの