いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『図書室』岸政彦(著)の感想【忘れていた思い出が蘇る】(三島賞候補)

忘れていた思い出が蘇る

読んでいて、自分自身の思い出が蘇りました

今まで思い出したことがない、小さな出来事です。

どこか遠くなつかしい風景が、記憶を呼び覚ましたのかもしれません。

 主人公は一人暮らしの50歳女性で、小学生時代を回想します。

当時通っていた図書室では、受付のおばさんも、来館したおじいちゃんも、寝ていました。

起きているのは、主人公と同い年の男の子です。彼が言います。

「なんか家も学校も嫌いちゃうけど、あの図書室って僕らしかしらんやん」

(中略)

「なんでもあるねん。じゃまされへんし。嫌がらせしてくるやつもおらんし、これ読みなさいって押し付けてくる先生もおらんし」(p.40)

2人だけの空間です。

そんな2人が、人類が滅亡した世界で生き残ったら、という想像をします。

以下に興味がある方におすすめです。

  • 忘れていた思い出
  • 図書室
  • 大阪の田舎
図書室

図書室

 

一言あらすじ

50歳の主人公は、40年前の出来事を回想する。同い年の男の子と「人類が滅亡した世界で生き残った」想像をして、行動に移す。

主要人物

私:主人公。50歳の女性で、10歳の頃を回想する

男の子:主人公が図書室で会った、同い年の子

人類が滅亡した世界で生き残ったら

主人公と男の子は、世界で自分たちだけ生き残ったら、と想像します。

 人類(とその犬や猫)が滅びたあとは、しばらくスーパーの缶詰を勝手に食べて、それで飢えをしのぐしかないとわかっていた(p.28)

実際にスーパーへ行き、缶詰を買い込みます。お金は、男の子のお年玉を使います。

心配する主人公に、男の子は言います。

みんな死んで、電気も水道もない、夜は真っ暗になるとこで、ふたりっきりで生きていかなあかんねんで(p.29)

皆死んだら、と空想することは、誰にでもあるでしょう。

ですが、空想にとどまらず、

  • お年玉で缶詰を買い込み
  • 誰にも見つからない場所を探しに歩く

と、行動に移します。 

ラストの波が描くもの

主人公が最後に思い返すのは、付き合った人と、台風が過ぎた後の海へ行ったことです。

その男の名前も顔も、もうあんまり思い出せない。でもその、高くて大きな波のことは、いまでもよく覚えている。

(中略)

あの波は、とてもよかった。(p.46)

なぜ、男の名前も思い出せないのに、波を覚えていて、その波が良かったと回想しているのでしょうか。

これがラストで唐突に入ることで、

  • 良い思い出だけを思い出し
  • 悪い思い出は無意識に忘れている

のではないかと、思いました。

50歳を機に、

  • 思い出したいものと、
  • 思い出さなくていいものを、

無意識に分けているのかもしれません。

図書室

図書室

 

調べた言葉

うやうやしい:丁重に振る舞うさま

無慈悲:いつくしみ、思いやる心がないこと

殺伐:すさんで荒々しいさま

慎ましい:控えめで、物静かであるさま

せせこましい:狭くて余裕がない