ビートたけしの語り口
ビートたけしさんが、昔話をしているような語り口です。
読んでいると、たけしさんの声で脳内再生されます。
一番古い記憶は、母親におんぶされながら、近所のおばさんと会話したことだそうで、
「たけちゃんは誰の子?」と訊かれると、必ず「アメリカ人の!」と答えていたことだ。
そんな幼少時代から、大学入学までが描かれます。
たけちゃん、とあるとおり、作者本人に近い話でしょう。主人公の名字も北野です。
小説というより、自叙伝のような気もしますが、掲載誌には「創作」と書かれています。(芥川賞の候補になったら面白いです)
ジャンルはともかく、入学後の続きの話も読みたいと思いました。
芸人として売れるまでの話も、この語り口で書いてほしいです。
以下に興味がある人におすすめです。
- ビートたけし
- 足立区
- 記憶
一言あらすじ
足立区で過ごした主人公の幼少から大学入学までを描く、自伝的小説。
主要人物
- 俺:主人公。作者(北野武)を思わせる
- 親爺:主人公の父。ペンキ職人
混線された記憶をもとに創作
この作品が「創作」なのは、自伝的でありながら、作者の記憶が混線しており、その記憶をもとに創作しているからでしょう。
先に引用した「アメリカ人の!」という返答も、本当にそうだったかと自問しています。
それが本当だったのか、どっかで記憶が誰かのものと混線してるんじゃないかと思ったりもする。(中略)ただ記憶ってのが、誰のために、何のためにあるのか曖昧なものだというのはわかる気がする。
この作品こそが、書かれた時点の作者の記憶をもとに、創作されているのだと思います。
憎めない親爺
主人公の父(親爺)は酒飲みで、飼い犬を蹴り、家庭内で暴力をふるいます。
最低な親爺ですが、どうも憎めないのです。
それは、自分の子どもを自慢に思っているからです。
「え、菊ちゃんの所、三人も大学行かせてんのか?」もう父ちゃんは嬉しくて「金掛かってしょうがねえよ、まったく大学なんか行ってどうすんだ!」こうやって自慢するのが嬉しいらしい。
また、親爺は長男には何も言えません。
長男の重一は家族のため夜間大学に入り、昼はGHQの通訳や高校の先生など何でもやっていて、さすがの親爺も兄貴の前では何もできない。
すごい人には弱い親爺、というのが滑稽で憎めません。
長男がいないときの、親爺の暴力は壮絶だったと想像します。
ですが、こうして滑稽とさえ思うことから、現在進行形で辛いことでも、時が経って記憶に残る際に、角が削れて柔らかくなるのかもしれません。
調べた言葉
- 義太夫:浄瑠璃の流派の一つ。三味線を伴奏に力強く語る
- 拍子木(ひょうしぎ):二つ打ち合わせて鳴らす四角い柱型の木