死にたい作家の日常
主人公の名前は田中、40代の小説家。
著者本人に近いです。
内面は、死と隣り合わせで、
- 実家の天井裏で首を吊ろうとする
- 線路の中に飛び込もうとする
- 国道で大型車の前に飛び出そうとする
仕事中に意識が遠くなったり気分が悪くなって吐いたりするくらい忙しい現世から、仕事の必要がない向うの世界へ行くのは人間として真っ当な選択だと、言ってはならないだろうか。(p.94)
芥川賞作家の田中さんですら、書くのがこれほど辛いのかと驚きました。
いつか自殺してしまうのでは、と思ってしまいます。
では、なぜそこまでして小説を書くのでしょう。
書く動機はつまり、要するに、早い話が、家賃。光熱費。実家への恥しいばかりの、ほとんど親不孝と変りのないわずかな送金。蛋白質も炭水化物もバランスよく摂りたい。(p.45)
死にたい一方で、栄養を気にしているのがおかしく、親近感を抱きました。
主人公のもとに、母から電話がかかってきます。
要件は、友人の息子が音信不通になったから探してほしい、というもの。
母の友人の息子は小説家を目指しているらしく、
かつて主人公は、母を通して「頑張ってくれ」と言ったそうです。
それが引っかかる主人公。
同時に小説のネタにできるのでは、と考えます。
以下に興味がある人におすすめです。
- 書けない小説家の日常
- 自殺願望
一言あらすじ
主人公の小説家は、生活のために書こうとする。書けないし、売れないし、女は出ていった。そんな主人公に、母から人探しを依頼される。
主要人物
- 私:田中。40代の小説家
- 母:私の母。夫に先立たれ一人暮らし
自殺はいけないのか
繰り返し死を考える主人公を見ていると、
「自殺はいけないことなのか」と、考えてしまいます。
線路に飛び込んだり、車道に飛び出したりは、第三者への影響から控えるにしても、
実家の天井裏でひっそり死ぬのは別にいいのではないか。
受動的に産まれてきた赤ちゃんへの祝福のように、
自発的に死を遂げた中年男への祝福があっても、いいのではないか。
馬鹿げた考えです。
主人公は、母のいる実家で死のうとします。
母には気の毒だけれども、この期に及んでは、一番の気の毒こそが母のためだ。これからの母の、十数年か二十年かの残り時間を、涙々で過させてやれば、さて日々の生活をどうしよう、体の不調をどうしようかと、母自身も悩まずにすむ。(p.110)
さすがに自分勝手すぎます。
ただ、自発的な死を止めるのは、そこまで重要でしょうか。
死にたい死にたいと言う人に「いったい、いつ死ぬんですか」と言うことは、自発性を妨げるのでよくないにしても、
自発的に死のうとする人を、止めたい人の真理は一体なんでしょう。
調べた言葉
- 功徳(くどく):世のため、人のためになるよい行い。
- 一家言(いっかげん):その人独自の意見や主張
- 千枚通し:重ねた髪に刺して穴をあける道具
- バックル:ベルト・靴などの留め金具
- 蛮行:野蛮な行為
- 申し開き:事情や理由を説明すること