いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『縫わんばならん』古川真人(著)の感想【退屈と評された芥川賞候補】(新潮新人賞受賞、芥川賞候補)

退屈と評された芥川賞候補

芥川賞の選評で、これほど「退屈」と言われた作品はあるでしょうか。

私も読んでいて退屈でした。

ただ、つまらないと切り捨てられませんでした。

この作品は、四世代の一家の声が、多様な視点で語られており、

壮大な記憶を作り上げています。

文章は濃密で、28歳の作者が老婆の心情をこれほど深く語れるのかと驚きました。

人物に憑依して書ける、古川さんの才能を感じました。

退屈に思ったのは、その一家で語られる内容が、あまりにも平坦だからです。

  • 店の注文や片づけ
  • 夫の入院
  • 一族が集まる葬儀

一般的な出来事ばかりです。

それに、登場人物の魅力がいまいち伝わってきません。

老婆たちに、さして違いや特徴を感じ取ることはできませんでした。若者も同様です。

読んでいる間は、「老婆や若者という役割」を担った人間の心情を、追いかけているイメージです。

現実に近いと思いました。

大体の家系には、ぶっとんだ人はいないでしょうし、

同じ家系だから似ているのも当然です。

長々と語られる一族の声にうんざりしているのに、

なぜだか聞き入ってしまいました

以下に興味がある人におすすめです。

  • 夢、現実、記憶が交差する語り
  • 一族にまたがる物語
  • 方言
  • 退屈さ
縫わんばならん

縫わんばならん

  • 作者:古川 真人
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/01/31
  • メディア: 単行本
 

一言あらすじ

長崎の島を舞台に、四世代の一族の物語が、老婆や若者などの多様な視点で語られる。

主要人物

  • 敬子:84歳で店を営む
  • 多津子:敬子の妹。地元を出て大阪で暮らす
  • 佐恵子:敬子と多津子の姉。
  • 稔:佐恵子の孫でフリーター。佐恵子の葬式へ行く

縫い合わせるには語り続ける

佐恵子の葬式で、一族が集まります。

佐恵子の孫である、稔の語りです。

イサちゃんが死んでも婆ちゃんが死んでも、ぜんぜん湿っぽい雰囲気にはならん。ずっとしゃべり散らしてばっかりで、悲しい空気に浸るっていうことが、うちの家にはまるでないもんな (p.98)

葬式の段になれば、死に悲しまないのかもしれません。

死が日常に溶け込んでいるのもあるでしょう。

そんな日常に、死者である佐恵子だけがいません。

みんなして記憶ば出しあって笑いよったら、まるでいまも婆ちゃんが死んどらんで、あの頃の姿のままで島の家にいる感じがしてくる。ただきょうだけは、ここに来ることのできんで、忙しくしとるんやないか、そんな気がしてくる。そうたい、話しつづけるあいだだけは(p.124)

記憶を頼りに一族が話し合う間は、佐恵子の死さえ感じさせないようです。

語られなくなったら、記憶はほつれてしまいます。

ほつれないように、縫い合わせる必要があります。

縫い合わせるには、語り続けなければならないでしょう。

古川さんには、気のすむまでこの一族を語り続けてほしいです。

調べた言葉

  • 鳶口:棒の先端に、トビのくちばしのような鉄製のかぎをつけた道具
  • 安楽椅子:休息用のひじかけ椅子
  • 輝映:かがやきうつる
  • 褥(しとね):ふとん、ざぶとん
  • 半鐘:非常時に警報として鳴らす鐘
  • ひとしお:より一層
  • 索漠:ものさびしいさま
  • 帰依(きえ):神仏を信仰し、すがること
  • 野良仕事:畑仕事
  • 訓戒:教えさとし、いましめること
  • 檀家:寺に所属し、布施をして寺の財政を支える家
  • 粗野(そや):言動挙動が荒々しいこと
  • 眇(すが)める:片方の目を細める
  • 卒然:突然
縫わんばならん

縫わんばならん

  • 作者:古川 真人
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/01/31
  • メディア: 単行本