教えを口実に胸を揉む
主人公は中学3年生で秀才です。
ただ授業態度が悪いので、テストの点数は良くても、通知表は2や3ばかりです。
ある日、主人公は、身体測定で廊下に並ぶ女子生徒たちの前を通ります。
下着を取っているため、胸の形をジャージで隠す生徒たちの中、一人だけ隠していない生徒(=坂本ちゃん)を見つけます。
彼女の胸が、白い体操着を内側から圧迫し、それが前開きのジャージから、前方に飛び出している。(中略)自分の胸元に無頓着な坂本ちゃんが、酷く艶めかしかった。(p.168)
坂本ちゃんは、成績は学年最下位グループです。
合唱コンクールの練習では声を出せず、意思表示もうまくできないので、教師からもクラスメイトからも弱者として下に見られています。
そんな坂本ちゃんに欲情したことに嫌気がさした主人公は、実際に彼女の胸を揉めばいいと、策略を立てます。
歌を練習するという口実で、彼女をカラオケに誘います。
思春期の行き場のない性欲や、強者と弱者の関係性に興味がある人におすすめです。
教えることで胸を揉んでいいか
主人公は、坂本ちゃんにすぐ自分の欲望を出すわけではありません。
歌や勉強を教えます。
その成果があって、坂本ちゃんは声が出たと褒められ、成績も上位半分に入りました。
特に成績アップは、彼女を馬鹿にしていたクラスメイトや教員を驚かせます。
主人公の教えによるものだとは、誰も気づきません。
では、手助けした対価として、胸を揉むのは良いことでしょうか。
坂本ちゃんが良いなら、いいと思います。
主人公は、坂本ちゃんに強制しているわけではありません。
逃げ道を用意していますし、暴力をふるうこともなければ、金をせびっているわけでもありません。弱みを握っているわけでもありません。
抜け出せる状況なのに、坂本ちゃんは律儀に待ち合わせ場所に現れます。
主人公に対する愛情のようなものがあると推測できます。
基本的に、胸を揉むことは対価で行われるものではありません。
ただ主人公は、自分に言い訳をしなければ、弱者である坂本ちゃんの胸を揉むことを、許せなかったのでしょう。
- 歌えるようにした
- 成績を向上させた
それにより、揉んでもいいと思えるのです。
主人公は一方で、
坂本ちゃんを道具にした人間でありたくなかった。彼女と対等な人間でありたかった。そういう本間の気持ち自体が、端から坂本ちゃんへの蔑みを孕んでいることも自覚しつつ、けれどもどうしようもない怒りや悲しみが性欲みたいにむらむらと湧いては自分の裏側から外へとあふれ出していた。(p.191)
対等に見たいがうまくできない葛藤があります。
彼女を下に見ている生徒や教師とは違うまなざしを、主人公は向けています。
調べた言葉
- そぞろ:そわそわして気持ちが落ち着かないさま
- 泰然:落ち着いて物事に動じないさま
- しおらしい:ひかえめでおとなしいさま
- 尊大:いばって偉そうな態度をとること
表題作『ナイス・エイジ』の感想はこちらです。