失踪した親友を探す
30代の主人公は、岩手に転勤し、一人暮らしをしています。
2年経っても、人との交流はほとんどありません。
主人公は釣り好きで、釣りのイベントに参加したのですが、
誰とも世間話ひとつできず、そんな自分に落胆します。
唯一、心を許せる友人が、かつての同僚、日浅でした。
日浅とは、同年代で釣り好き、日本酒好きなので気が合いました。
突然、彼の退職を人伝えで聞きます。
主人公は、彼の退職は不思議ではないと感じます。
日浅はどうも、時代を間違えて生まれたように見えるのだ。(中略)磯に小舟を浮かべて海岸線を計測したり、鳶や鴉を飼い慣らし、村の通信の用に役立てたりなど、何か一風変わった独自の仕事に打ち込んだんじゃないだろうか。(p.13)
日浅の退職後、主人公は彼から突然の訪問を受けます。
日浅は訪問型の営業職に就いていました。会員の獲得が主な業務です。
二人の交流は続きますが、東日本大震災を機に行方をくらまします。
主人公は失踪した親友を探します。
すると、今まで知らなかった日浅について、知ることになります。
人間の裏の顔やそれを知ったときにどうなるか興味がある人、
釣りが好きな人におすすめです。
親友に金を頼めるか
主人公が日浅を親友と思うように、日浅も同じでしょう。
日浅が最後まで、会員加入の営業で主人公を勧誘しなかったからです。
ノルマ達成のための最後の手段で、主人公に声を掛けます。
嫌だったはずです。本当に良いものなら、最初に薦めるでしょうから。
日浅が姿を消した後、主人公の同僚が、彼にせがまれて金を貸していることを知ります。
同僚と違って、日浅から主人公へ金の無心はありません。
日浅にとって主人公が、心を許せる友人だからでしょう。
友人、それも親友との金の貸し借りが良くないのは、誰でもわかります。
では、金の貸し借りがあると、友人関係は破綻してしまうのでしょうか。
どうしてもだめなときは、友人を頼っていいと思います。
仮に親友から、「何も言わずに300万貸してくれ。ちゃんと返すから」と言われたとします。
私は、あげるつもりで渡します。「返すのはいつでもいい」と言って。
金を返してもらえることはなく、その人との関係も途絶えるかもしれません。
でも、親友ならいいと思えます。そこまで付き合いがあったから、金を渡せます。
逆の立場で、私がどうしてもだめだったときに親友にお金を借りられるかというと、借りられません。
お金を貸すことはできますが、借りることはできません。
貸すことより、借りることの方が難しい気がします。
親友なら嫌な顔せず貸してくれるとわかるからこそ、利害関係に少しも足を踏み入れたくないのです。
調べた言葉
- 喬木(きょうぼく):高い木
- 往還:行き帰り
- 猛禽(もうきん):性質が荒い肉食の鳥
- 憤然:はげしく怒るさま
- 誂え向き:希望にぴったり合っていること
- 釣果(ちょうか):魚釣りの成果
- 貪婪(どんらん):欲深いこと
- 旋毛(せんもう):つむじ
- 白亜:白い壁
- 闊達:心が広く、小さなことにこだわらないさま
- スノビッシュ:上品ぶった
- 気が揉める:心配で落ち着かない
- 建具(たてぐ):開閉機能を持つ仕切り
- 三和土(たたき):コンクリートで固めた土間
- 蜉蝣(かげろう):トンボの古名