歌人、俳人、廃人
エッセイというより随筆です。
語り口が堅い(古風な)分、語られている内容のおかしさが浮き出ます。
例えば、アニメ「けものフレンズ」を「一切、理解できぬ。」と言いながら最後まで視聴したり、コアファンしか知らないコラボ企画に参加しようとしていたりします。
著者の紹介部分です。
全国をお遍路の如く周遊しながら、つれづれなるままに書を記している。歌人であり、俳人でもあり、場合によっては廃人と見なされることもある。
- 歌人=バンド
- 俳人=作家
- 廃人=引きこもり?
だと考えると、あながち間違いではありません。
高橋さんは多才です。
- 漫画をジャンプの新人賞に応募
- ロックバンドを組む
- プロ棋士を目指す
- 予備校で講師
その後、高橋さんは新潮新人賞を受賞し、小説家になります。
小説を書いていることを、小学校時代の教員に報告すると、
先生は妙に納得していた。それからこうも洩らしていた。
「犯罪者にならなくて本当に良かった――。」
犯罪者になると思われるって、どんな小学生だったのでしょう。
当時の通知表には、
- 高橋さんは著しく強調性に欠け、
- 先生は高橋さんの将来をとても心配している
と書かれていたようです。
また、執筆環境の取材で、新聞社の人間が高橋さんの自宅を訪問すると、
唐草模様の法衣を纏い、蓮の絵入りの扇子を片手にした、中原中也のような男が立っていた。
ん? と思い、中原中也を画像検索すると、ハット姿でつぶらな瞳を向けている青年が出ます。
高橋さんとは全く違います。
一方、画像検索ではアニメ化されたものも表示されており、そのイラストは茶髪で長髪の姿です。つぶらな瞳はきりっとした細い目に変わっています。
高橋さんに似ていなくはありません。
ちなみに執筆環境は以下のとおりです。
- 六畳間の書斎
- BTOパソコン(22型のディスプレイ)
- 2万円以上のフィルコ製キーボード
- Bluetoothスピーカー
独特な語り口のエッセイに興味がある人におすすめです。
芥川賞受賞後のサイン会
サイン会の前、高橋さんはロックバンド時代に3人しか来なかったサイン会を思い出します。
出版社に確認します。
「本当に客は来るのか、三名以下ならば私は登場しないぞ」
100人ほどの来客で大盛況だったようです。
その分同じ文字を繰り返し書くので、ゲシュタルト崩壊に陥ります。
私は何故”高橋”なのか――、”高橋”ではなく”田中”ではいけないのか――、いや、”高橋”も”田中”もただの記号だ、記号によって人間性は確定されない――、ならば”田中”とサインしてもいいのではないか――
”田中”とサインするのはいくらなんでもダメでしょうが、そういう心理状態になる気持ちはわからなくもないです。
調べた言葉
- 翡翠:深緑の半透明な宝石の一つ
- 唐草模様:つる草が張ったり、絡んだりしている図の模様