大阪での断片的な出来事
著者の岸さんは、大学入学以降、大阪に住んでいます。
大阪に住んだ岸さんは、
- ベースを始めて、仕事として演奏
- バーテンダーのバイト
- 大学院に落ちて、発掘現場や建設現場で日雇い労働
と、勉強以外に一生懸命です。
発掘現場のバイトでは、化粧っけがなく汚い格好の女の子がいました。
前屈みになって現場で作業しているときにいつも、かなり大きな胸の谷間とブラが丸見えになっていて、うわあ、と思ったが、こちら側のおっさんたちは誰もそれを話題にすることすらなかった。(中略)生々しく、荒々しい、剥き出しの、何というか、目のやり場に困るものだった。
触れられない感じが伝わります。
大学4年間の中でもっとも良い思い出は、友人二人との散歩だと言います。
公園の横に大きな給水塔があったことを覚えている。そこで座って、とくになにも喋らず、ただ黙って三人で座って、日ざしを浴びていた。私はいまだに何度もこの情景を思い出す。静かで、穏やかで、明るく、暖かい気分になる。
無言の時間を穏やかに過ごせる相手って貴重ですよね。
沈黙に気まずさを感じないのは、よほど信頼が厚かったのでしょう。
こうした、岸さんの大阪での出来事が断片的に語られます。
この場所で出会ってきたさまざまな断片をつなぎあわせて、大阪の街で膨大な数の人びとが毎日を生きていて、それぞれが膨大な物語を紡いでいるという単純な事実を想像したい、そういうことを書きたいと思う。
大阪の街やそこに住む人々に興味がある人におすすめです。
学歴コンプレックス
岸さんは、関西大学、大阪市立大学の大学院に通っていました。
大学に就職できる見込みがなかったので、死のうと思っていたそうです。
現在は大学で働いていますが、周りは京大卒が多いらしいです。
どうも学歴にコンプレックスを抱いている印象を受けます。
受験勉強をまったくしなかったのでたいしたところには合格しなかった
(中略)
適当に受験した京大の院試に落ちてしまい
と、 勉強すればできるけど、勉強しなかったから……という言い訳に感じます(勉強せずに関西大学に受かるのはすごいですが)。
実際、勉強をおろそかにしていたとしても、それを原因として書くと、言い訳に聞こえてダサいと思ってしまいます。
「受験勉強ができなかったのに関西大学に合格できた」「受験した京大の院試に落ちてしまい」でいいのに。
そうであれば、読者として「勉強できないと言いつつ関大か」とか「岸さんでも京大落ちるんだ」と思えるからです。
他が良いだけに、学歴と風俗(申し訳ないことをしているような気がするから行かない)の話は、変にプライドの高さを感じました。
調べた言葉
- 荊冠旗(けいかんき):全国水平社の旗に由来するシンボルマーク