乱交、ドラック、暴力
米軍基地が身近に存在する、若者たちの乱交、ドラック、暴力です。
主人公の名前、リュウは著者と同じです。
著者の経験が入った作品でしょう。
あとがきでは、ヒロインに向けて書かれています。
こんな小説を書いたからって、俺が変わっちゃってるだろうと思わないでくれ。俺はあの頃と変わってないから。 リュウ
主人公は米軍とつながりがあり、彼らもパーティに参加します。
主人公の仲間の女性が、米軍の股間の大きさを比べます。
誰のが一番でかいか比べるわ、
犬のように絨毯を這い転がって一人一人くわえて回る。
サブローと呼ばれる日本人との混血児のが最大とわかって、ベルモットの空瓶にあったコスモスを記念に尿道に刺し込む。
そんな光景を、主人公は痛々しさを感じることなく、見ています。
部屋のあちこちでからだをくねらせる三人の日本人の女を見ながら、僕はペパミントワインを飲み、蜂蜜を塗ったクラッカーを食べる。
感情を出しません。一人だけ異質です。
では、主人公に感情がないのかというと、そうではありません。
解説で綿矢りささんは言います。
リュウは見てるだけ、助けもしない。でも彼は実際は赤ん坊ではなく目の前で起こっていることを理解しているから、無言のうちに目の前の光景を身体のなかに通し、その度に傷ついている。
乱交、ドラック、暴力を見続ける主人公がどうなるか、興味がある人におすすめです。
限りなく透明に近いブルー
本書のタイトルは、「クリトリスにバターを」から改題されたそうです。
当然といえば当然ですね。
では、そのタイトルの意味は何を示しているのか。
再度綿矢さんの解説です(解説が素晴らしい)。
唯一暴力的ではないテレパシーは、苦しみぬいた末草むらに倒れたリュウが、自分の血で汚れたガラスに見た、あの美しい色だ。”限りなく透明に近いブルー”という色は複雑な色味のはずなのに、その脆く薄く美しい色彩のイメージは誰の頭のなかにも思い浮かぶ。
暴力から唯一免れた場所で見えた色というわけですね。
主人公は、その色を映すガラスみたいになりたいと願います。
なれるのでしょうか。
なれるかどうかは、特技であるフルートが鍵のような気がします。
誕生日会で、主人公が吹いたフルートが仲間を癒しました。
仲間が主人公に言います。
あの時のフルートを聞いたあの気分がどういうものかもっとよく知りたいな。(中略)もし知ったらヘロイン止めようって思うかな、思わないだろうな。だからって言うわけじゃないけど、お前フルートやれよ
誰かを癒すことが主人公にはできます。
仲間がそれを主人公に伝えます。
そうした人間関係に「限りなく透明に近いブルー」を垣間見ました。
調べた言葉
- フィラメント:電球・真空管などの内部にあり、電流を流して熱電子を放出する、細い線。
- ハシシ:麻の花穂の樹脂を固めたもので、喫うと幻覚を生じさせる