血は争えないのか
男子高校生の主人公は、父と再婚の母との三人暮らしです。
生みの母は、近所で魚屋をやっています。右手首から先は、戦争でなくしました。
父は性行為のときに相手の顔を殴ります。
殴られたことがあるのは、
- 生みの母
- 再婚の母
- 近所で体を売っている女性
です。
父は快楽のために殴ります。それ以外では殴りません。
なので、主人公は父に殴られたことはありません。
主人公には交際している彼女がいます。
自分には人を殴る父親の血が流れているから、彼女を殴ってしまうのではと恐れています。
それでも、
殴っても殴らなくても、セックスだけはしたかった。
ある日主人公は、彼女の首を絞めてしまいます。
彼女からは受け入れてもらえず、拒絶されます。
彼女と性行為できない主人公は、体を売っている40歳くらいの女性の家に行きます。
父にも抱かれているのを知った上でです。
主人公は、その女性を肉の塊だと言い聞かせたとき、欲求がはじけ、女性の頬を殴ります。
父の血は争えないのか、遺伝には逆らえないのかに興味がある人におすすめです。
自分の快楽のために殴ること
父は、主人公が殴ったことを、体を売っている女性から聞いたようで、主人公に言います。
一回やってしもうたら、やめよう思うても無理ぞ。わしは、やめようとは思わんかった。こねえにええものか、思うただけじゃった。
(中略)
あいつ言いよったぞ、髪、引っ摑んで、頭ぐりぐりやるとき時のお前、目ェ剥いて鼻おっ広げて、子どもみたいに嬉しそうじゃったってのお。
主人公も父と同じ、快楽のために人を殴っていたのです。
殴ることについて、生みの母は主人公に言います。
殴った時はなんの覚悟もなかったじゃろうけど、いっぺんでもやってしもうたんじゃったら覚悟しちょき。
一方、父に殴られていたことについて母は、
あの男、恐ろしげな目で、(中略)うちのこと見下ろしてからいね、自分が気持ちようなりたいだけで殴るんじゃけどよ、あの目は右手のないそを笑うとりはせんかった。ばかにしとりはせんかった。ただ殴りよるだけじゃった。
父は、右手がないことを笑わず、馬鹿にもせず、快楽のために殴るだけでした。
だから母は、父を受け入れたのでしょう。
今でも父が誰かを殴るのは、自分が止めなかったからだと、母が自分を責める気持ちはわかります。
ですが、生みの母以外も、父に殴られるのを拒否しているようには見えません。
だからといって、父を擁護できるところは、一つもありません。
さらに父は、主人公の彼女まで犯します。
我慢出来ん時は、誰でもよかろうが。割れ目じゃったらなんでもよかろうが。
なぜ、そんな魔物が生まれたのかを考えても、うまくいきません。
どうしようもない悪ですが、殴ることでしか快楽を得られない父に寂しさを感じました。
調べた言葉
- 檣(ほばしら):船に立てて帆をかかげる柱
- 雨樋(あまどい):雨水を軒先で受け手、地上に流すためのとい
- 蚊柱(かばしら):群がって飛ぶ蚊が柱のように見えるもの
- 差配:指図してとり仕切ること
- ひしゃげる:おされてつぶれる