いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『共喰い(小説)』田中慎弥(著)の感想【血は争えないのか】(芥川賞受賞)

血は争えないのか

男子高校生の主人公は、父と再婚の母との三人暮らしです。

生みの母は、近所で魚屋をやっています。右手首から先は、戦争でなくしました

父は性行為のときに相手の顔を殴ります

殴られたことがあるのは、

  • 生みの母
  • 再婚の母
  • 近所で体を売っている女性

です。

父は快楽のために殴ります。それ以外では殴りません。

なので、主人公は父に殴られたことはありません。

主人公には交際している彼女がいます。

自分には人を殴る父親の血が流れているから、彼女を殴ってしまうのではと恐れています

それでも、

殴っても殴らなくても、セックスだけはしたかった

ある日主人公は、彼女の首を絞めてしまいます

彼女からは受け入れてもらえず、拒絶されます。

彼女と性行為できない主人公は、体を売っている40歳くらいの女性の家に行きます。

父にも抱かれているのを知った上でです。

主人公は、その女性を肉の塊だと言い聞かせたとき、欲求がはじけ、女性の頬を殴ります

父の血は争えないのか、遺伝には逆らえないのかに興味がある人におすすめです。

共喰い (集英社文庫)

共喰い (集英社文庫)

  • 作者:田中慎弥
  • 発売日: 2013/03/13
  • メディア: Kindle版
 

自分の快楽のために殴ること

父は、主人公が殴ったことを、体を売っている女性から聞いたようで、主人公に言います。

一回やってしもうたら、やめよう思うても無理ぞ。わしは、やめようとは思わんかった。こねえにええものか、思うただけじゃった

(中略)

あいつ言いよったぞ、髪、引っ摑んで、頭ぐりぐりやるとき時のお前、目ェ剥いて鼻おっ広げて、子どもみたいに嬉しそうじゃったってのお。

主人公も父と同じ、快楽のために人を殴っていたのです。

殴ることについて、生みの母は主人公に言います。

殴った時はなんの覚悟もなかったじゃろうけど、いっぺんでもやってしもうたんじゃったら覚悟しちょき

一方、父に殴られていたことについて母は、

あの男、恐ろしげな目で、(中略)うちのこと見下ろしてからいね、自分が気持ちようなりたいだけで殴るんじゃけどよ、あの目は右手のないそを笑うとりはせんかったばかにしとりはせんかったただ殴りよるだけじゃった

父は、右手がないことを笑わず、馬鹿にもせず快楽のために殴るだけでした。

だから母は、父を受け入れたのでしょう。

今でも父が誰かを殴るのは、自分が止めなかったからだと、母が自分を責める気持ちはわかります。

ですが、生みの母以外も、父に殴られるのを拒否しているようには見えません。

だからといって、父を擁護できるところは、一つもありません

さらに父は、主人公の彼女まで犯します。

我慢出来ん時は、誰でもよかろうが。割れ目じゃったらなんでもよかろうが。

なぜ、そんな魔物が生まれたのかを考えても、うまくいきません。

どうしようもない悪ですが、殴ることでしか快楽を得られない父に寂しさを感じました。

共喰い (集英社文庫)

共喰い (集英社文庫)

  • 作者:田中慎弥
  • 発売日: 2013/03/13
  • メディア: Kindle版
 

調べた言葉

  • 檣(ほばしら):船に立てて帆をかかげる柱
  • 雨樋(あまどい):雨水を軒先で受け手、地上に流すためのとい
  • 蚊柱(かばしら):群がって飛ぶ蚊が柱のように見えるもの
  • 差配:指図してとり仕切ること
  • ひしゃげる:おされてつぶれる