銃を見つけたら
道端で銃を見つけたらどうしますか?
それを誰にも見られていないとして。
選択肢は3つです。
- 警察を呼ぶ(警察に届ける)
- 見て見ぬふりをして立ち去る
- 拾う
普通は、1か2ですよね。
この作品の主人公である大学生は、銃を拾います。
冒頭の一文目、
昨日、私は拳銃を拾った。あるいは盗んだのかもしれないが、私にはよくわからない。
拾ったか盗んだか、よくわからない主人公。
冒頭からどんよりとした空気感に包まれています。
銃のそばには、銃で自殺したと思われる死体がありました。
ですが、主人公は死体を無視し、銃を自宅に持ち去ります。
主人公は、退屈な大学生活を送っていましたが、銃という非日常を手に入れたことで、退屈さが吹き飛びます。
銃を眺めたり磨いたりしていると、銃がない生活は考えられなくなります。
銃を仕舞う鞄の下敷きにする布や、銃を拭く布を購入し、愛情を注ぎます。
銃を持ち歩くようになると、
私はいつか拳銃を撃つ、それは間違いのないことだと、その中で思うようになった。拳銃を所持し、その発射の実感をいつでも享受できる状態で日々を送る私は、いつか必ずそれを求める、つまり撃つに違いないと、思ったのだった。
銃を拾った青年や、銃を持つ人間の心理に興味がある人におすすめです。
銃は非日常を体験できる道具
主人公は、道具である銃に翻弄されます。
なぜ、道具の一つにすぎない銃に、そこまで翻弄されるのでしょうか。
銃が、非日常を体験できる道具だからです。
最初は、銃の所持が非日常でした。
所持だけでは飽き足らず、外に持ち歩くようになります。
持ち歩くだけでなく、撃ってみたくなります。
主人公は、女性にもてるし、大学では友人たちから声を掛けられます。
自然に人が寄ってくる雰囲気の好青年です。
主人公は、何不自由ない生活を送っているように見えますが、一方で、生活に楽しみがあるようには見えません。
友人とは表面的な付き合いですし、何かバイトをやっているわけでも、大学の勉強に熱心に取り組んでいるわけでもありません。
そんなときに拾った銃です。
銃には、使用する者の手を汚すことなく、他者の命を奪う力があります。
圧倒的な力を手にした主人公。
撃ってみたくなる気持ちはわかります。
道端に銃を見つけたときに拾わない人は、仮に、道にスーツケース一杯の現金があったらどうでしょう。
誰にも見られていないなら、持ち帰ろうとは思わないでしょうか。
大量の現金は、主人公にとっての銃と同じです。
非日常を経験したら、いけるところまで際限がなくなります。
銃を手にした主人公の、非日常を求め進んでいく心理描写が、読みやすく書かれていて、素晴らしいです。
調べた言葉
- エスノセントリズム:自民族の文化を絶対的な基準として、諸文化の優劣や良し悪しを判断すること
- ゲットー:ユダヤ人を隔離し居住させた区域
- 畏怖:おそれおののくこと
- 水をさす:仲のいい間柄の邪魔をする