いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『銃(小説)』中村文則(著)の感想【銃を見つけたら】(新潮新人賞受賞、芥川賞候補)

銃を見つけたら

道端で銃を見つけたらどうしますか?

それを誰にも見られていないとして。

選択肢は3つです。

  1. 警察を呼ぶ(警察に届ける)
  2. 見て見ぬふりをして立ち去る
  3. 拾う

普通は、1か2ですよね。

この作品の主人公である大学生は、銃を拾います。

冒頭の一文目、

昨日、私は拳銃を拾った。あるいは盗んだのかもしれないが、私にはよくわからない。

拾ったか盗んだか、よくわからない主人公。

冒頭からどんよりとした空気感に包まれています。

銃のそばには、銃で自殺したと思われる死体がありました。

ですが、主人公は死体を無視し、銃を自宅に持ち去ります。

主人公は、退屈な大学生活を送っていましたが、銃という非日常を手に入れたことで、退屈さが吹き飛びます

銃を眺めたり磨いたりしていると、銃がない生活は考えられなくなります。

銃を仕舞う鞄の下敷きにする布や、銃を拭く布を購入し、愛情を注ぎます。

銃を持ち歩くようになると、

私はいつか拳銃を撃つ、それは間違いのないことだと、その中で思うようになった。拳銃を所持し、その発射の実感をいつでも享受できる状態で日々を送る私は、いつか必ずそれを求める、つまり撃つに違いないと、思ったのだった。

銃を拾った青年や、銃を持つ人間の心理に興味がある人におすすめです。

銃 (河出文庫)

銃 (河出文庫)

  • 作者:中村 文則
  • 発売日: 2012/07/05
  • メディア: 文庫
 

銃は非日常を体験できる道具

主人公は、道具である銃に翻弄されます。

なぜ、道具の一つにすぎない銃に、そこまで翻弄されるのでしょうか。

銃が、非日常を体験できる道具だからです。

最初は、銃の所持が非日常でした。

所持だけでは飽き足らず、外に持ち歩くようになります。

持ち歩くだけでなく、撃ってみたくなります。

主人公は、女性にもてるし、大学では友人たちから声を掛けられます。

自然に人が寄ってくる雰囲気の好青年です。

主人公は、何不自由ない生活を送っているように見えますが、一方で、生活に楽しみがあるようには見えません

友人とは表面的な付き合いですし、何かバイトをやっているわけでも、大学の勉強に熱心に取り組んでいるわけでもありません。

そんなときに拾った銃です。

銃には、使用する者の手を汚すことなく、他者の命を奪う力があります。

圧倒的な力を手にした主人公。

撃ってみたくなる気持ちはわかります。

道端に銃を見つけたときに拾わない人は、仮に、道にスーツケース一杯の現金があったらどうでしょう。

誰にも見られていないなら、持ち帰ろうとは思わないでしょうか。

大量の現金は、主人公にとっての銃と同じです。

非日常を経験したら、いけるところまで際限がなくなります

銃を手にした主人公の、非日常を求め進んでいく心理描写が、読みやすく書かれていて、素晴らしいです。

銃 (河出文庫)

銃 (河出文庫)

  • 作者:中村 文則
  • 発売日: 2012/07/05
  • メディア: 文庫
 

調べた言葉

  • エスノセントリズム:自民族の文化を絶対的な基準として、諸文化の優劣や良し悪しを判断すること
  • ゲットー:ユダヤ人を隔離し居住させた区域
  • 畏怖:おそれおののくこと
  • 水をさす:仲のいい間柄の邪魔をする