いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『中国行きのスロウ・ボート』村上春樹(著)の感想【死が中国人を思い出させる】

死が中国人を思い出させる

冒頭は、

最初の中国人に出会ったのはいつのことだったろう?

で始まり、それを調べるため、主人公は図書館へ出かけます。

しかし主人公は、

僕が最初の中国人に出会った正確な日付になんて誰が興味を持つ?

と、思い直し、調べることをやめます。

主人公が思い出せる小学校時代の出来事は、

  • 中国人に出会ったこと
  • 野球の試合で脳震とうを起こしたこと

だけです。

脳震とうを起こしたとき、主人公は、

大丈夫、埃さえ払えばまだ食べられる。

と言ったそうです。

何のことかわからないですが、

20年以上経った今でも、その言葉を思い出すそうです。

その言葉を頭にとどめながら、

僕は僕という一人の人間の存在と、僕という一人の人間が辿らなければならぬ道について考えてみる。そしてそのような思考が当然到達するはずの一点――、について考えてみる。(中略)死はなぜかしら僕に中国人のことを思い出させる

人生について考えたとき、行き着く先に「死」があるのはわかります。

ですが、「死」が中国人を思い出させるのは、なぜでしょうか。

「死」が思い出させる中国人の話に興味がある人におすすめです。

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

 

死が中国人を思い出させるのはなぜか

主人公が出会った中国人は3人います。

  • 小学校時代:試験の監督官の男性
  • 大学生時代:出版社のバイト仲間の女性
  • 社会人時代:偶然再会した高校時代の同級生

その3人は、死と直結していません。

3人に共通するのは、主人公と日本で出会った中国人であることです。

在日中国人日本が勝利した中国との戦争は、死と関連します

バイト仲間の中国人の女性は言います。

ここは私のいるべき場所じゃないのよ

いるべき場所ではないのに、中国人女性は日本にいます。

試験監督の中国人男性は言います。

どんなに仲の良い友だちでも、やはりわかってもらえないこともある。そうですね? わたくしたち二つの国のあいだでもそれは同じです。でも努力さえすれば、わたくしたちはきっと仲良くなれる、わたくしはそう信じています。

努力さえすれば、わたくしたちはきっと仲良くなれる」は、先の「埃さえ払えばまだ食べられる」と韻を踏んでいます。

隠されたテーマな感じがします。

高校の同級生の中国人男性は、中国人向けに百科事典を売っていました。

俺は日本人には売らなくてもいいことになってるんだよ。なんていうか、取り決めでね。 

 日本人の主人公は考えます。

いつか姿を現わすかもしれない中国行きのスロウ・ボートを待とう。そして中国の街の光輝く屋根を想い、その緑なす草原を想おう。

日本と中国は、逆の立場になったかもしれないし、これからそうなる可能性はあり得ると、言っているように感じました。 

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

 

収録作『午後の最後の芝生』の感想はこちらです。