いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『ヤー・チャイカ』池澤夏樹(著)の感想【大人になったら英雄はいらない】

大人になったら英雄はいらない

「ヤー・チャイカ」はロシア語で、意味は「わたしはカモメ」です。

世界で最初の女性宇宙飛行士、テレシコワのコールサインが、「わたしはカモメ」だったそうです。

ちなみに、人類で最初の宇宙飛行士ガガーリンのコールサインは、「ヤー・オリョール」=「わたしはワシ」だそうです。

だから何なのかという話ですが、カモメとワシの違いは作中で示されています。

カモメみたいに一度飛んだら降りてきてのんびりすればいいのに、ワシさんはがんばりすぎたのよ」とカンナは言った。

「なるほど。しかしわれわれには高く飛ぶワシが必要だった。それをガガーリンはよく知っていた」とクーキンが言った。

カンナは日本人の女子高生クーキンはロシア人のおじさんです。

クーキンが言う「われわれ」とはロシア人ではなく、少年たちのことだそうです。

続けてクーキンは、

大人になったら、もう英雄はいらない。

と言います。

逆に言えば、英雄が必要なのは子どもです。

カンナは高校生ですが、父である主人公は、彼女がどんな英雄を必要としているか、見当がつきません。

カンナは機械体操をしていますが、限界を感じています

体操はもうこれ以上やっても伸びないと思う。

(中略)

なんかのびのびと身体が動かない。無理しているって気がする。限界だよ。

英雄にあこがれて何かを始めたとしても、限界を感じて終わりがくるのが普通です。

限界を感じた結果、自分に合った現実を受け入れます

現実に向き合ったら、つまり大人になったら、英雄はいらないのでしょうか。

夢とのはかない別れや、現実に向き合うことに興味がある人におすすめです。

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)

  • 作者:池澤 夏樹
  • 発売日: 1991/12/10
  • メディア: 文庫
 

恐竜を飼う少女

娘やロシア人との現実的な生活が描かれる章とは別に、

わたしは恐龍を飼っています

から始まる、幻想的な章が描かれます。

わたし=カンナでしょう。

彼女は恐竜に毎日餌をあげており、その恐竜に乗れるのは世界で自分だけだと自負しています。

彼女が成長すると、恐竜に餌をあげる少女が、

  • 餌をあげる少女
  • それを俯瞰する少女

に分かれます。

幻想に別れを告げるのが、大人になることなのでしょうか。

幻想を抱きながら、現実を生きていくのはできないのでしょうか。

分かれ道で一方を選んだら、もう一つがどういう道だったのか、推定するほかない。(中略)誰だって両方を較べて選択しているわけではないのだ。

人生の分岐点で、ゲームのようにセーブポイントがあればいいのにと思います。

一つの世界しか選べないのは、そして一度選んだら後戻りできないのは、当然のこととはいえ、残酷です。

やはり大人になっても、英雄は必要です。

現実を受け入れたことを言い訳に、くたびれた大人になんか、なりたくないからです。

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)

  • 作者:池澤 夏樹
  • 発売日: 1991/12/10
  • メディア: 文庫
 

調べた言葉

  • 雑然:いろいろなものが入り混じってまとまりがないさま
  • 事蹟(じせき):事の跡形
  • 光芒(こうぼう):すじになって見える高専
  • 流感:流行性感冒(インフルエンザ)
  • 蒼穹(そうきゅう):青空
  • かがる:糸などで束ねて縫う
  • 茫然:広大なさま
  • 煉獄:カトリック教で、死者霊魂が天国に入る前に、火によってその罪を浄化するとされる場所
  • 汲々:一つのことにとらわれて、ゆとりなくそれだけにつとめるさま
  • 倒錯:反社会的、反道徳的な態度を示すこと
  • 気後れ:相手の勢いにひるむこと

表題作『スティル・ライフ』の感想はこちらです。