いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『アキちゃん』三木三奈(著)の感想【大事なことを隠すズルさ】(文學界新人賞受賞、芥川賞候補)

大事なことを隠すズルさ

「アキちゃん」は、主人公が小学5年生のときの同級生です。

大人になった主人公が、過去を回想する形で、物語は進みます。

わたしはアキちゃんが嫌いだった。

(中略)

これまでの人生において、これほど真剣に誰かを憎んだことはない

なぜ、そこまで憎むのかという興味が、先を読ませます。

後半、アキちゃんに関する「大事なこと」が明かされます。

気になったのは3点。

  1. 大事なことを隠すズルさ
  2. いつの主人公が、どんな理由で語っているか
  3. そこまでアキちゃんが憎いか

以下、「大事なこと」について書きますので、ご注意ください。

文學界 (2020年5月号)

文學界 (2020年5月号)

  • 発売日: 2020/04/07
  • メディア: 雑誌
 

1.大事なことを隠すズルさ

長嶋有さんの選評に、

重要な事項があり、それを終盤まで隠している。作者が、ある効果のためにそのことを恣意的に「手でおさえている」わけだが、僕は創作におけるそういう「手」に対して常に「ズル!」 と思う(選評より)

同感です。

重要な事項が、著者(主人公)にとっては重要でないから最初に書かなかったとしても、ズルいと感じました。

ミスリードを狙ってる書き方をしています。

例えば、主人公がアキちゃんに憎しみを向けるとき、

このアマ――いつぞやこの言葉を知って以来、わたしはしばしばアキちゃんをこう呼んだ

とあります。

心の中で呼ぶなら、「アマ」じゃなくて、「オカマ」とか「男女」とか、男の要素を入れて呼ぶんじゃないでしょうか。

中村文則さんの選評では、

何か事実を明かす時、再読を要求するより読んだ瞬間「あーなるほど!」と読者がなった方がよい(選評より)

私は「あーなるほど!」とはならず、再読しました。

2.いつの主人公が、どんな理由で語っているか

  • 主人公が大人になった今、なぜ「アキちゃん」を語るか
  • 主人公は、今どんな状況なのか

全くわかりません。

ここに書きとめておくほどでもない。

ここにウソを並べてもしょうがないので正直に書くが――

という記載はありますが、誰に向けて書いているのかはわかりません。

3.そこまでアキちゃんが憎いか

主人公は、「女として」アキちゃんに見てもらえなかったことで憎んでいるのでしょうか。

わたしはアキちゃんに告白をさせたうえで、じぶんも同じ気持ちだと言ってやろうと思った。

主人公には、憎しみの裏に、好きという感情があるようです。

小学5年生の女の子が、「女として好き」と思われなかったことで、大人になった現在まで相手を憎み続けるでしょうか。

それに主人公は、アキちゃんを「このアマ」と呼びますから、主人公も「男として」思っていない部分があります(ですが上記のとおり「このアマ」はミスリードを誘うためのものだと思います)。

アキちゃんがそこにいるから、身を隠しなさい。それから逃げなさい。できるだけ遠くへ、見つからないようにね。たったそれだけで、いったいどのくらいの人が救われることだろう

大げさだし、アキちゃんがそこまで警戒される存在なのか、疑問でした。

文學界 (2020年5月号)

文學界 (2020年5月号)

  • 発売日: 2020/04/07
  • メディア: 雑誌
 

調べた言葉

  • いじましい:か弱い
  • かいがいしい:きびきびと立ち働くさま
  • 歯が浮く:軽薄なお世辞などを聞いて不快な気持ちになる
  • おべっか:目上の者の機嫌をとること
  • つんざく:激しく突き破る
  • 泰然:ゆったりと落ち着いていて動じないさま
  • ぬか雨:霧のように細かい雨
  • 漫然:はっきりとした目的や意識がなく、なんとなく物事をするさま
  • 表象:心に思い浮かべる外界の対象のイメージ
  • カルマ:業、行為
  • しゃちこばる:体をこわばらせる
  • 寓居:仮に住むこと
  • 阿(おもね)る:人の機嫌をとって気に入られようとする
  • 妄執(もうしゅう):心の迷いから物事に執着すること
  • つっかけ:つま先にひっかけるようにして履くもの
  • 遊水地:洪水時に川の水をためるのに利用される場所
  • かしずく:人に仕えて世話をする

第163回芥川賞の候補作、受賞予想はこちらです。