いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『木になった亜沙』今村夏子(著)の感想【純粋に欲を追求した結果】

純粋に欲を追求した結果

主人公の亜沙は、自分が差し出した物を食べてもらいたいのですが、食べてもらえません。

例えば、

  • ひまわりの種:園児に、本当に食べられるものかと訝しがられる
  • クッキー:小学生に、クッキー嫌いだからと突き返される

というように。

母にクッキーを渡すと、病院の受診があるからと、食べてもらえませんでした。

給食当番でインゲン豆を渡そうとすると、インゲン豆の食中毒のニュースがあったため、生徒から拒否されます。

亜沙はタイミングが悪く、差し出した物を受け取ってもらえません。

しまいには、金魚に餌を食べてもらえません

もはやタイミングだけの問題ではなく、亜沙の天性としか思えません。

(金魚に餌を食べてもらえないのは極端でしょうが……)

誰にも食べてもらえなかった亜沙は、杉の木になり、割りばしになります

割りばしになった亜沙は、若者の手に渡ります。

亜沙は割りばしとして、若者に唐揚げや白飯を食べさせることができました

念願が叶ってめでたしめでたし……ではありませんでした!

単純に欲を純粋に追及したらどうなるか、興味がある人におすすめです。

木になった亜沙 (文春e-book)

木になった亜沙 (文春e-book)

  • 作者:今村 夏子
  • 発売日: 2020/04/06
  • メディア: Kindle版
 

純粋に欲を追求した者たち

亜沙は、「食べてもらいたい」欲を追求した結果、割りばしに変化しました。

亜沙の他にも変化した者たちがいます。

例えば、

  • 抱きしめたい欲が、掛け布団に変化
  • 抱きしめられたい欲が、毛布に変化
  • 握手したい欲が、ドアノブに変化
  • 服を着せてもらいたい欲が、ハンガーに変化
  • おんぶしてもらいたい欲が、リュックサックに変化
  • 良い子良い子してもらいたい欲が、ペコちゃん人形に変化

と、純粋に欲を追求した結果、体現する物に変化しています。

変化したのは、亜沙と同じく、生前の欲がかなえられなかったからでしょう。

欲を追求し、変化した物たちも、亜沙と同じ若者の家に集まります。

若者は、掛け布団に抱きしめられ、毛布を抱きしめ、ドアノブと握手し、ハンガーに服を着せ、リュックサックをおんぶし、ペコちゃん人形を良い子良い子します。

変化した物たちも、若者に欲をかなえてもらいました。

割りばしになった亜沙は、若者に何回も洗われて、ご飯を食べさせます。

若者の恋人は、割りばしを洗って使うのはやめた方がいいと言い、割りばしを捨てようとします。

若者は拒み、恋人とけんか別れしてしまいます。

若者は「物をずっと使う」欲に駆られていました。

あらゆる物を、汚くなっても使い続けます。その結果は悲惨です。

「物を捨てずに使い続けよう」と、教訓めいた方向にいかないのが良いです。

純粋な欲であれ、極端は危険なのでしょう。

文章は軽いタッチですが、内容はずしんと重いです。

木になった亜沙 (文春e-book)

木になった亜沙 (文春e-book)

  • 作者:今村 夏子
  • 発売日: 2020/04/06
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