虫と呼ばれた女の子
30代後半の主人公は、音楽で生計を立てています。
- 夜の店で歌の伴奏
- 音楽教室の講師
で、月20万円くらい稼ぎます。
主人公が本当にやりたいのは、ジャズクラブでの演奏ですが、ギャラは1回1000円ほどなので、伴奏と講師が主な収入です。
主人公は、音楽の仕事を辞めてしまおうかと考えています。
やめて何ができるわけでもないのだが、ぱっとしないまま、だらだらと飯だけ食えているいまの状態に嫌気がさしている。飯だけがだらだらと食えている状態、というのは、残酷なものだ。やめどきが見つからない。
辞めてもできることがないなら、続けるしかないでしょうし、好きな音楽で毎月20万稼ぐのはすごいと思ってしまいますが……。
本当に怖いのは、中途半端に「できてしまう」ということだ。これなら、ぜんぜんできないほうがまだましだ。
できる人なりの辛さでしょう。できない人にとっては、嫌みにしか聞こえません。
「できている」か「できていないか」は、自分と相手で認識が違います。
自分が「うまく弾けなかった」と言っても、相手から「弾けてたよ」と言われることはあります。
相手が本気で言っているか、お世辞かはわかりません。
励ましは、誰に言われるかで全然違います。
できていると思っていないのに食えている状況は、ギャップがあることなので、怖いのかもしれません。
主人公がすごいと認めるピアノ伴奏の男性は、実は睡眠薬を飲んでいました。
良く見えてても、その人なりに抱えている葛藤があるのでしょう。
主人公は、「リリアン」という裁縫道具から、小学生時代を思い出します。
「虫」と呼ばれる同級生の女の子が、主人公の家での読書会に、突然参加表明してきます。
主人公の友人たちは、女の子が参加するのを知って、主人公の家に行きません。
主人公は中途半端でした。
- 女の子の参加を最初から拒否するか
- 家に来た女の子を受け入れるか
すれば良かったのですが、
その場でまさかお前だけは来るなとも言えなかった。
俺は虫をそこに座らせると、和室の引き戸を開けっ放しにして、黙ってそのまま階段を上がり、虫をひとりにしたまま、二階の自分の部屋にこもってしまった。
主人公は、女の子の参加を拒否できず、読書会もしませんでした。
放置された女の子は、リリアンで一人裁縫をしていました。
嫌われてると知りながら参加表明してみたものの、嫌われてるから誰も来ない現実に直面した女の子。
大人になった今、リリアンをきっかけに思い出した出来事に、せつなさを感じます。
- プラスを期待して、マイナスを直視した女の子の絶望
- 大人になって思い出しても何もできない、主人公のどうしようもなさ
どうしていいかわかりません。
調べた言葉
- 風紋:風によって砂地の上にできる模様
- コンビナート:関連企業・工場などが、一定の地域内に計画的に集結したもの
併録されている『大阪の西は全部海』の感想はこちらです。