生活は落ち着かない
「座る」=「落ち着く」とすると、
「生活は座らない」は、「生活は落ち着かない」という意味です。
30代の主人公は、大学時代の友人から誘いの連絡を受けます。
上野に行かない? 上野の美術館、日曜。どう?
誘いを受けた主人公は、友人から怪しい商売の勧誘をされるのではないかと頭をよぎり、先手を打ちます。
先物取引とか、自然由来の成分の洗剤使ってみない的な勧誘だったら――ちげえよ――そうなの?
ダッシュ(――)で会話する人が交代しています。
友人は休職中で、怪しい商売の勧誘ではないとわかりますが、
いったい今日は何で呼んだの? とでも、こちらから言えばよかったが、何か面倒な気持ちだった。
上野の博物館の見物をそこそこに、主人公と友人は、目についた居酒屋に入ります。
居酒屋は周りがうるさく、会話がままならないので、すぐに店を出ます。
静かな空間を求めて、別の店に入ります。
2人で飲んでいたところに、主人公が後輩を1人誘い、誘われた後輩が2人誘って、計5人になります。
最終的に主人公は、店は三軒はしごします。どこにも落ち着きません。
繰り広げられる会話は、何のためにもならない、その場限りのものが多くを占めます。
誰にとっても興味のないことこそ、 もっとも会話の中で無難であり、話し終えるや潜り込んでこようとする沈黙を遠ざけるに適したものだったから――
誰もが無難な会話をします。
主人公のかつての友人に、個人的な話題に踏み込む人間がいました。
転職、病気、金、結婚などについて訊ける人間です。
こういったことを訊くことのできる果敢な質問者と、途方もない無邪気な馬鹿者の両方の気質を併せ持っており、要するに大森がそうなのだった――
大森がいた飲み会で、言い争いになったことを主人公は思い出していました。
今回大森は呼ばれず、集まった5人では、生活の核になる話題になりません。
話題は、
- ドラマ
- 映画
- 芸人
など、自らの生活には直結しない会話です。
ダッシュ(――)で引き継がれる会話は、どこに行きつくこともないまま、だらだらとつながれていきます。
5人は、
誰も彼も、まだ自分の生活を持っていなかったからだ。学生だったり、無職だったり、フリーターだったり、就活生だったり、見習いの小僧っ子だったからだ。
30歳過ぎて誰一人、落ち着いた自分の生活を送っていません。
「生活が落ち着かない」=「生活が座らない」です。
大学生の飲み会でされるような会話を、30歳を超えた大人がしています。
- 個人的な話題をあえて避けているのか
- 自分の生活に直結しない会話をだらだらするのが好きなのか
無駄にしか見えない飲み会も、自分の生活を持っていない5人には必要です。
大森のような、生活の核心に触れる人間は排除されます。
調べた言葉
- どよもす:鳴り響かせる
- 領する:手に入れる
- 化生:生まれ出ること