いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

第163回芥川賞受賞作発表、会見、選評(2020年上半期)の感想

第163回芥川賞受賞作発表

2020年7月15日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。

ダブル受賞です。

  • 高山羽根子『首里の馬』
  • 遠野遥『破局』
首里の馬

首里の馬

 
破局

破局

  • 作者:遠野遥
  • 発売日: 2020/07/04
  • メディア: Kindle版
 

高山羽根子『首里の馬』

予想的中しました。

候補作の中で、最も不思議な世界観を作り出していて、完成度の高さを感じました。

感想はこちらです。

遠野遥『破局』

受賞すると思いませんでした

前回の野間文芸新人賞で、千葉雅也さんの『デットライン』が受賞したときのような驚きがありました。

つまらなくありません。語り手が最初から不穏で、奇妙な作品です。

受賞に至った経緯、選考委員の選評が気になります。

感想はこちらです。

高山羽根子さんの記者会見

――今のお気持ちをお聞かせいただけますか。

平たく言うとほっとしたというか、もう後ちょっと書かせていただけるというか、もう少し書いて大丈夫と思えることができたのが、一番ほっとしました。

高山さんは何冊も本を出しているのに、受賞=作家の寿命が伸びるという感覚に驚きました。

――沖縄っていうのを今回書いてみようと思われた理由について。

行った経験が先にあって、それから生まれた形になります。書こうと思って行ったのではなくて、行かせていただいた縁というか、旅行なり何なりで行かせていただいた経験みたいなものがあって、そこから生まれたっていう形になります。

沖縄で綿密な取材をしているのだと思っていました。

――今の状況を野球で例えるとどんな言葉になりますか。

別のプレイボールがかかった感じですかね。今、これがゴールという感じでは全然なくて、また一つ、スタートラインの端、フィールドの端っこに立たせていただくことができたかなっていうくらいの感じですかね。

謙虚な方ですね。高山さんがスタートラインの端、フィールドの端だなんて、誰も思ってないでしょう。

――東京についてこれから書く予定だったり、場所に対しての思いを伺えればと思います。

2020年の前後で、すごく変わっていて、それを記録したいなという気持ちはすごく今あります。記録というか、書かなければいけないもののうちの、とても大きな一つなんじゃないかなという気持ちは今あります。

東京の変化にまつわる高山さんの作品、読みたいです。

――絵を描くということが、小説を書くということにどのような影響を与えているか?

字で書ききれないことを絵で描いて、絵で描ききれないことを字で書くみたいなことを繰り返しながら、進めているというような、確認をしながらやっていっているような感じがあって。

(絵と小説)どちらかがうまくいかないと、ちょっと止まってしまうような気持ちも自分ではあるので、どっちも進めていかないといけないんだなっていうのは、自分の中では思っています。

 『首里の馬』の単行本の表紙が、高山さんの描く「宮古馬」だったら面白いです。

遠野遥さんの記者会見

画面からは、不機嫌そうな態度を感じました。

記者から「(マスクの下の笑顔を)ちょっと見していだだけませんか?」と言われたことに対して、「ちょっとウイルスとかあるんで」と、遠野さんはもっともらしく断ります。

私は笑いましたが、記者からしたら面白くないでしょう。

――(受賞にあたって)どの辺が一番大きかったと考えていらっしゃるか?

SNSとか書評とか拝見していると、主人公の性格がちょっと変わっているっていうのをよく見てまして、そのあたりが作品に個性を与えたのかなというふうに思ってます。

主人公の性格は、候補作の中で一番独特ですね。

――自覚的に書かれているのか、あまり自覚せずにナチュラルに書かれているのか、票が割れたみたいですけど。

自分ではそんな変なキャラクターにしようとか思ってなくて、逆に人によっては気持ち悪いとか、共感できないとか、怖いとかおっしゃるんですけど、そんな風に書いたんじゃないんだけどなと思いますね。もう少し親しみを持っていただけたらと思います。

自覚的に書いていないのが意外です(遠野さんが嘘をついているかもしれませんが)。

――書く上で、影響を与えたり、目標にしている作家がいれば教えていただければと思います。

特に誰かを目標というのはないです。そこははっきりしています。
(影響について)特にこの人からっていうのは思い付かないですけど、『コンビニ人間』とか、『限りなく透明に近いブルー』とか、『蛇にピアス』とかは印象に残っていて、印象に残っているということは、何らかの影響を受けているとも考えられます。

はっきり目標とする人がいないというところに、良い意味でプライドの高さを感じました。

――喜びを誰かに伝えたいとしたら誰に伝えますか?

あんまり喜びっていうのを誰かに伝えるっていうものではないと認識しています。

キザで格好良い。小説のセリフみたいです。

選評

選考委員の吉田修一さんの会見は、NHKの記事からの引用です。

(以下、NHKの記事からの引用)

「結果的に過半数を超える点数だった2作が受賞となりました。いずれも丸とバツが半々ぐらいでした」

(『首里の馬』について)「これまで書かれてきた作品の集大成だという印象。孤独な場所というのがどういう場所なのか、手を変え品を変え描いてきた作家だと思うので、これまでの作品よりよいというより、これまでの作品でいちばんストレートに伝わる作品だった」

(『破局』について)「登場人物にこれまでと違う新鮮さがあって、そこに期待や評価をするほうは丸を付けていた。主人公の正体がつかめないため議論になったが、人間のアンバランスさが魅力的で新しさを感じての受賞になった」

『破局』は賛否両論ありそうですが、『首里の馬』が丸とバツが半々なのは意外でした。

『首里の馬』は高山さんの集大成、『破局』は新しさを感じての受賞となると、私がダブル受賞で予想した『赤い砂を蹴る』は、石原さんの集大成でなく、新しさもありませんでしたね。

私の第163回芥川賞の予想はこちらです。

第163回芥川賞・直木賞を予想した番組、ラジオ日本『大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(予想編)』の感想はこちらです。