いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『土に贖う』河﨑秋子(著)の感想【三島賞候補】(繁栄し衰退した産業の歴史)

繁栄し衰退した産業の歴史

北海道を舞台に、繁栄・衰退した産業の歴史が描かれます。

描かれる産業は、

  • 養蚕
  • ミンクの養殖
  • ハッカ油の生産
  • 馬の装蹄
  • レンガ工場

などです。

それぞれが、一つの短編として構成された短編集です。

短編ごとに関連性はありませんが、衰退する産業という共通点があるため、ラストは切なさがあります。 

土に贖う

土に贖う

  • 作者:河崎 秋子
  • 発売日: 2019/09/05
  • メディア: 単行本
 

ミンクの養殖の短編

毛皮製品にするために動物を殺すことを、良しとしない人がいます。

主人公が、ミンクの皮のキーホルダーを近所の子どもに渡すと、子どもの祖母は言います。

戦争も終わったってのに、毛皮の為に動物を殺生するなんてろくでなしだ。

近所の子ども経由で、祖母の言葉を聞いた主人公は、子どもに言います。

乳や肉とるのに牛ば飼うのと、毛皮とるのにミンク飼うのと、どこの何が違うっちゅうんだ! 

どちらの言い分も正当なだけに、良い悪いを判断できません。

ですが、主人公が子ども相手に怒りをぶつけたために、子どもから仕返しを受けます。

子どもの仕返しが、何ともやるせなく、切ないです。

レンガ工場での短編

過酷極まりない労働が描かれます。

労働の流れは、

  1. 山中から粘土を掘り、馬を使って作業場に運ぶ
  2. 直方体の形に整える
  3. 日光で干すため並べる
  4. 石炭をくべながら窯で焼く 

主人公は真面目で、レンガ工場での仕事を一通り経験したこともあり、若くして現場の責任者になります。

レンガ産業は発展途上のため、受注するレンガの量が増えます。その分、労働者に負担がのしかかります

主人公と同じ、現場責任者の同僚が言います。

下方は馬みてえに使い潰されるだけ

下方とは、現場責任者に使われる側の人間です。

責任者は、体を動かす側ではなく、人を使う側、人を使い潰す側です。

使い潰す側にいなきゃ、自分が下方として使い潰されることになるんだぞ。そんな仕組み、俺らじゃ変えられねえ。

過重な労働に耐えられなくなった馬は死に、人も死にます。

主人公には、妻と子どもがいます。仕事を辞めるわけにも、死ぬわけにもいきません。

主人公はつぶやきます。

(子どもに)勉強、させてやらんと。(中略)誰がやっても構わなくて、そんですぐに替えのきくような仕事でなくて。 

勉強しなかった人は、替えのきく仕事しかできません。今の時代にも通じることでしょう。

勉強すれば、仕事の選択肢の幅が広がります

選択肢の幅が広がれば、誰でもできる仕事や、やりたくない仕事を回避することができます。

勉強した主人公の子どもは、北海道の銀行に勤めますが、銀行は経営破綻に陥り、職を失います。

それでも、銀行の職を失った主人公の子どもは、別の道に進みます。

勉強は、人の可能性を広げるシンプルな手段だと感じました。

土に贖う

土に贖う

  • 作者:河崎 秋子
  • 発売日: 2019/09/05
  • メディア: 単行本
 

調べた言葉

  • 贖(あがな)う:つぐないをする
  • 芳しい:よい香りがするさま
  • 口吻(こうふん):口先、くちばし
  • 矢も楯もたまらず:あることをしたい気持ちをこらえることができないさま
  • 過渡期:古いものに移っていく途中の時代
  • 狂瀾(きょうらん):荒れ狂う波
  • うそぶく:とぼけて知らないふりをする
  • 人品(じんぴん):ひとがら
  • 節くれだつ:手や指が骨ばってごつごつする
  • 相好(そうごう)を崩す:にこやかな表情になる
  • 面映(おもは)ゆい:照れくさい
  • 逐電:逃げ去って行動をくらますこと
  • 買い叩く:値切れるだけ値切った安値で買う
  • 操’(みさお)を立てる:貞操を守り通す
  • 暗礁に乗り上げる:思わぬ障害で、物事の進行を妨げられる
  • 寒村:さびれた、貧しい村
  • 不浄:けがれていること
  • 脚気:ビタミンB₁の欠乏から起こる病気。ひどくなると心不全を起こす
  • 壊血病:ビタミンCの欠乏から起こる病気。歩行困難などを引き起こす
  • 今際(いまわ):死ぬ間際
  • 営巣(えいそう):動物が巣をつくること
  • 木賃宿(きちんやど):安宿
  • 膂力(りょりょく):筋力、腕力
  • 胡乱(うろん):怪しく確かでないさま
  • 直会(なおらい):神事ののち、供え物をおろして参加者一同が飲食する行事

第33回三島賞の候補作、受賞予想はこちらです。