戦時中の不思議な体験
- 戦地に行った夫
- 日本で待つ妻
の手紙のやりとりがメインです。
手紙では、お互いの不思議な体験が交わされます。
- 夫:戦地での体験
- 妻子:内地での体験
夫は、南の島らしき場所で、現地の土地を耕しています。
日本との違いに、夫は違和感を抱きます。
我が国と比べてここはずいぶんと雲が高い位置を流れているようだということです。
さらに、
遥か頭上を行く飛行機がいつもどのようなわけか上下あべこべのように見え
ると言います。
夫の行った島では、死者を風葬(自然に放置)しています。
祭りの日には、
生きているものと死んでいるものとを木の棒で繋ぎ輪になって踊ります。
恐ろしいのは、
一晩中踊ることで、どれが死人だか生きているのだかわからなくなった人たちは、生き死にがごっちゃになってしまうのだそうです。
結果、死んだはずの者が、生き返る現象が起きます。
日本で夫の帰りを待つ妻子も、不思議な現象に見舞われます。
小さな外国兵が、武器を持たず藪の中でうずくまっているのを、妻は見つけます。妻は家に連れて帰り、看病をします。
言葉は通じませんが、外国兵と妻の子どもが仲良くなります。
妻、子、外国兵で、山に行きます。
突然、耳の裂けるほど大きな音が聞こえます。新型爆弾(核爆弾)が落とされたのです。
すると、
(小さな外国兵が)干からびてしまいました
と子どもが言います。外国兵が木の枝になったのです。
夫と妻の不思議な体験は、
- 夫:死者と生きている者が、木の棒で繋ぎ、輪になって踊る
- 妻:小さな外国兵が、突然干からびて木の枝に変化する
不思議な体験に共通しているのは、木です。
- 夫の体験での木:死者と生きている者をつなぐもの
- 妻の体験での木:小さな外国兵が変化したもの
夫は直感します。小さな外国兵は、夫のいる島から行ったのではないかと。
妻は直感します。夫は南の島にではなく、空の上にいるのではないかと。
小さな外国兵は木に変化したことから、夫のいる島でのダンスで、つなぎ目だった木だった可能性があります。つまり、生きてもなく死んでもいない存在です。
夫のいる島は、南の島でないのでしょう。日本と比べて雲が高い位置を流れたり、飛行機の上下がさかさまになることは、あり得ないからです。
では、なぜ手紙が届き続けるのでしょう。
妻は、上空を飛んでいる飛行機が落としているからだと言います。
あなたは空襲などされませんとも。無論、私たちもです。あなたと私の頭上を行きかうあの、空飛ぶ乗り物の中には、紙っきればかりがパンパンに詰まっているのですから。
飛行機が積んでいるのが爆撃ではなく手紙という推測は、なんて馬鹿らしく、なんて美しいのでしょう。
調べた言葉
- まろぶ:転ぶ
- ささら:小さい、細かい
- むしろ:わらなどを編んで作った敷物
- 風葬:死体を自然に放置して風化させる葬法
表題作『オブジェクタム』の感想はこちらです。