いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『とんこつQ&A』今村夏子(著)の感想②【仕事ができない人を雇い続ける店】

仕事ができない人を雇い続ける店

感想①はこちらです。

主人公は「いらっしゃいませ」が言えません。注文を取りに行くことも、空いたお皿を下げることも、できません。

普通なら、すぐクビでしょう。

ですが、町の中華料理屋「とんこつ」の大将や息子は、クビにしません。

むしろ、主人公を慰め、励まします。

主人公が「とんこつQ&A」という、店での応対メモを書くようになったとき、接客ができるようになります

主人公の接客が上達したこともあり、店は繁盛し、もう一人バイトを雇います

新たに採用したバイトの女性も仕事ができません。ですが、大将や息子は、主人公のときと同様、バイトの女性をクビにしません。

なぜ、仕事ができない人を雇い続けるのでしょう

大将や息子は、新たなバイトの女性に、亡き妻(母)を見ていました。

大将の妻(息子の母)は、亡くなっていました

生前は、三人で店を切り盛りしていたのでしょう。

新たなバイトの女性は、亡き妻(母)と同じ、大阪出身だったこともあり、大将と息子は、亡き妻(母)のように振舞ってもらおうとします

その結果、バイトの女性は、亡き妻(母)の役割が定着します。お客さんから「おかみさん」と呼ばれるようになります。

さらに、

大将とぼっちゃんは、おかみさんのことを「お母さん」と呼び始めた

バイトの女性は、主人公や客からはおかみさんと呼ばれ、大将や息子(ぼっちゃん)からはお母さんと呼ばれます。どんな気持ちだったのでしょう。

バイトの女性に不穏さが現れている箇所があります。

最近では、突然、意味不明なことを良いながら泣き出したり、大将と二人きりの時に暴れたりすることがあるというけれど、基本的には変わらない

良いこともあります。息子について、

昔は不登校児だったけど、大好きなお母さんから毎日のように『学校行きや』と言われ続けるうちに、いつしか真面目に通うようになっていた。

バイトの女性が、息子の母の役割を果たすことで、息子は不登校を脱し、学校に通います。

仕事のできなかったバイトの女性でも、大将や妻(息子の母)を演じ切ることで、とんこつの生活環境を改善したのです。

大将の妻(息子の母)になれなかった主人公も、とんこつには必要不可欠な存在のようで、

調理も接客も掃除も会計も買い物も、なんでもこなせるオールラウンドプレーヤーやで。

主人公は、とんこつの従業員たち(大将、息子、バイトの女性=おかみさん)に褒められます。

ただ、息子が

結婚したいくらい好き、アッ言っちゃった

と言ったことで、あれ? あやしさを感じました

べた褒めのセリフは「」ではなく、『』に入っています

『』内のセリフであることから、従業員の言葉ではなく、「とんこつQ&A」(メモ帳)に書かれた言葉ではないかと思いました。

大将、息子、バイトの女性(おかみさん)で完結するとんこつに、主人公が無理やり自分に居場所を与えようとした結果、「とんこつQ&A」に自分をべた褒めする記載をしたのかもしれません。

芥川賞受賞作『むらさきのスカートの女』の感想はこちらです。