日常を楽しめる角度
ハライチ岩井さんの初の著書(エッセイ)です。
日常で起きる些細な出来事を、独自の視点で描きます。
起こる出来事は、本書のタイトルどおり、「事件」とは言えないものばかりです。
例えば、
- 久々の同窓会で、マウントを取ってくる同級生にイラつかされる
- 珪藻土(けいそうど。バスマットなどで使われる、水を吸う石のようなもの)と自然薯(じねんじょ)にハマる
など、芸能人ならではの話ではありません。誰にでもある日常の話です。
日常の出来事だからといって、つまらないわけでもありません。むしろ面白いです。
なぜ面白いのかを考えると、日常を過ごす岩井さんの見方や考え方、さらに行動の仕方に面白みを感じるからです。
例えば、同窓会の話について、
岩井さんは、同窓会に呼ばれてませんでしたが、出席者の一人から個人的に誘いを受けます。
仕事が終わってから行くと、仲の良かったわけでもない同級生もいました。その同級生はマウントを取ろうとしてきます。
その同級生は、その場にいない同級生の一人が警備員の仕事をしていることに対し、「30過ぎて警備員ってどうなの?」と吐き捨てるように言います。
仲の良いわけでもない同級生のマウント、帰りたくなります。
ですが、岩井さんは帰りません。話を聞き、酒を飲ませます。
同級生が店のソファで寝ている間、岩井さんは代金を全額支払って帰ります。
痛快な行動ですが、それ以上に私は、警備員という仕事を馬鹿にした同級生に腹を立てた岩井さんに、好感を持ちました。
警備員も立派な仕事だ。友達が今、警備員の仕事をやっている。何が悪いのだ。
職業に貴賤はない。確かにそうですが、そう思うのはなかなか難しいです。
私は、マウントを取りたがる同級生のように言葉で発することはなくても、「30過ぎて警備員ってどうなの?」と内心思ってしまう人間なので、恥ずかしくなりました。
華やかな芸能界で活躍する岩井さんが、「警備員も立派な仕事だ」と言い切るところに魅力を感じました。
「おわりに」で、岩井さんは、
誰の人生にも事件は起きない。でも決して楽しめない訳じゃない。
と書いています。
さらに、
どんな日常でも楽しめる角度が確実にあるんじゃないかと思っている。僕は、事件が起きない僕の人生を、ここから見たら結構面白そうだな、という角度を見つけて皆さんに見てもらえたらと思う。
岩井さんには、平凡な日常を楽しめる角度があるからこそ、
- 珪藻土バスマットに立ち続けたら、体内から水分が抜けるんじゃないか
- 珪藻土バスマットに自然薯を吸わせたら、どちらも消滅するんじゃないか
という突飛で、くすっと笑える発想が生まれるのでしょう。