いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『オブジェクタム』高山羽根子(著)の感想【中学校別、スカートの長さ比較】

中学校別、スカートの長さ比較

首里の馬』で高山さんが芥川賞を受賞した際、『オブジェクタム』で受賞すべきだったという人の声を、ちらほら聞きました。

それで、読んでみました。

結論から言うと、

『首里の馬』より良い作品だとは思いませんでした

『首里の馬』に比べて、文章は読みにくいし、作品自体で何が言いたいのか、うまく掴めませんでした。

ただ、読んでいて、懐かしさだとか、知ってるような風景だとか、そういうものがぼんやりと浮かんできます

主人公は小学生の男の子です。

広場の壁に貼られた手書きの新聞が、祖父によって作られていることを知り、主人公は誰にも知られないよう、祖父を手伝います。

主人公の他に、手書きの新聞の作成者が祖父であることを、誰も知りません

名を明かさずに新聞を作ることを、祖父は、

せまい町の中で、書く人間の正体がわかってしまうと客観性に支障が出る

と言います。

客観性の支障の有無は不明ですが、その新聞は、地域に住む人たちの関心の的です。

確かに、記事には興味深いテーマがあります。

例えば、

町内中学校の女子、スカ―トの長さ比較

です。女子中学生のスカ―トの長さが膝上か膝下か、地域内の中学校で比較するという記事です。

調査の結果、スカートが短い中学校は二中だと知った主人公は、

一番不良が多いのは二中?

と、祖父に訊ねます。

祖父は、

記事を見る人の中にはそう思う人もいるだろうな。逆に、おしゃれだ、自由だという人もいる。それは、我々の仕事じゃない。読む人がすることだ

と言います。読んで何かを判断するのは、読む人の仕事というわけです。

高山さんの小説にも同じことが言えるんだろうな、と思いました。

小説を読んでどう思うかは、読む人それぞれでいいと言ってくれているような――

そう思うと、良い作品な気がしてきました。

祖父はさらに、

豆知識だとか浅知恵だとか、意見だとか、そういったものがいっぱい集まる。ふつうに考えて、関係ないような見当はずれな言葉でさえ、その集まったものが人間の脳みそみたいに精神とか、意志、倫理なんかを持っているように見える場合がある。

と言います。

難しいですが、この構造は『首里の馬』に通ずるものがあると感じました。

そして、「関係ないような見当はずれな」人物たちが、最後に、全員集合とばかりに関わってきます

最初は、ぱらぱら登場してきた人物たちが、最後に集まってくるのです。

まるで、作品全体が「人間の脳みそみないな精神とか、意志、倫理」を持っているように見えてきます

構造自体は掴んだ気がするのですが、肝心の、「精神、意志、倫理」はこの作品で一体何なのか、何を示しているのかは、わかりませんでした

オブジェクタム

オブジェクタム

 

併録されている『太陽の側の島』の感想はこちらです。