いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹(著)の感想【トラウマは掘り返さなくていい】

トラウマは掘り返さなくていい

主人公(多崎つくる)は、高校時代の親友4人(男2人、女2人)に、絶縁されます

大学2年生のときでした。

理由を明かされず、親友たちから連絡を閉ざされます

その結果、主人公は、死ぬことばかりを考え、死の淵をさまよいます。

それから16年経った現在、主人公は、鉄道会社で駅をつくる仕事をしています。

主人公には、仲の良い2歳年上の女性がいます。

彼女から言われます。

なぜそこまできっぱりと拒絶されたのか、されなくてはならなかったのか、その理由をあなた自身の手でそろそろ明らかにしてもいいんじゃないかという気がするのよ

主人公は彼女の助けを借り、高校時代の4人の親友に会うことにします。当時絶縁された理由を聞くために。

この作品はミステリー仕立てです。

大きな謎「なぜ主人公は、突然親友たちから絶縁されたのか」を解き明かしていくことです。

謎は解き明かされますが、疑問が残ります。大きく3つです。

  1. 主人公が絶縁を告げられた当時、なぜ理由を聞かなかったのか
  2. 主人公は、絶縁の理由を、16年経った今になって聞くべきだったのか
  3. 親友たちは、なぜ主人公の言い分を全く聞かずに一方的に絶縁したのか

主人公は、親友たちとの関係を続けたかったならば、絶縁を告げられた当時に、食い下がってでも理由を聞くべきだったと思います。

突然の出来事でショックを受け、理由を聞くような精神状態ではなかったとはいえ、そのままにしておいていい事柄ではなかったように思えます。

親友から、一方的に絶縁を告げられるなんて、理由がなければあり得ません

その理由に心当たりがないなら、何か誤解されているはずです。

理由を聞く気力や体力がなかったというならば、16年経った今になって、理由を聞くべきではなかったように思えます。

なぜなら、絶縁される人間の言い分を全く聞かずに、一方的に絶縁を告げる人を、親友とはいえないからです。あまりにもひどすぎます。

欠席裁判のようなことをする人たちとは、そこで関係が終わって良かったのです。

逆に言えば、親友たちは、主人公との関係を、一方的に閉ざしても良いと結論付けたわけです。

主人公に非があってもなくても、絶縁の理由を教えてくれるまともな人間は、親友の中にはいなかったわけです。

なぜ今、過去のトラウマを掘り返してしまったのでしょうか。

きっかけは、仲の良い2歳年上の女性に「絶縁の理由を明らかにするよう」助言されたからです。

この女性は、人のトラウマに土足で入ってきて、あたかも、もっともらしい言葉を使って、主人公を誘導します

確かに、絶縁の理由は聞くべきだったでしょう。

ですがそれは、16年経った今ではなく、絶縁を告げられた当時です。

月日が経って、傷がかさぶたになっているのにもかかわらず、自らはがすようにけしかけるこの女性が、恐ろしくてたまりません

主人公は、この女性と絶縁した方が良い気がします。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)