漫画家の厳しい現実
漫画家になるためのノウハウ本ではありません。
「浅野いにお」という漫画家の日常を記した、エッセイです。
では、なぜタイトルが『漫画家入門』なのでしょうか。
「入門」というと、漫画家になるための第一歩というイメージです。
むしろ、
- 「浅野いにお入門」
- 「ある漫画家の日常」
というタイトルの方が、しっくりくるような気がします。
ですが、「浅野いにお入門」という自身の名前が入ったタイトルや、「ある漫画家の日常」といういかにもみたいなタイトルを、浅野さんがつけるはずがありません。
では、なぜ『漫画家入門』なのでしょう。
漫画家になりたい人にも読んでもらいたい意図はあるはずです。
それに、日常の話が大半ですが、漫画家を志そうとする人が知っておいた方が良さそうな、有益な話もあります(有益な話がほとんどないと言っているように聞こえますが、否定はできません。ただ、面白いです)。
例えば、漫画業界の話があります。
ほとんどの人が漫画を必要としていない人生を送っている。ないならないで代替可能なほかの娯楽に溢れている。ならば、本当に漫画市場を必要としているのは出版社と漫画家自身なのかもしれない。
確かに、漫画を読まなくても死なないですからね。
ただ、出版社の漫画編集部と漫画家は、漫画がなかったら職業として死んでしまいます。
漫画家を志望することに対して、
もし才能に溢れて表現の出所を探している若者がいるとしたら、今あえて漫画を選ぶ理由はないだろう。つまり緩やかに業界は縮小してゆく。
ライバルを減らすための言葉とも捉えられかねませんが、浅野さんほどの漫画家が、次の漫画家の輩出を止めたいと思って言っているとは、考えたくないです。
一方で、浅野さんが自信を喪失するという、意外な一面が見られます。
自分が描くものに対する疑念が拭えず、漫画家を辞める辞めないの葛藤をしているうちに、自死が頭をもたげるようになった。
漫画に詳しくない私でさえ、浅野さんの作品を読んだことがありますから、売れている漫画家さんのはずなのに、自殺まで考えてしまうほど悩むというのは意外でした。
漫画家という職業は、死にたくなるくらい大変なんだと、裏側が垣間見えた気がしました。
思い返せば、私の読んだ浅野さんの作品は、『おやすみプンプン』が最後でした。
発行年を見ると2013年。7年経って手に取ったのは、漫画ではなく『漫画家入門』です。
浅野さんの作品は『おやすみプンプン』以降も出版されていますが、私は手に取りませんでした。
作品を読んで、「面白くないから読まない」と判断したわけではありません。
単純に、手に取らなかっただけです。
上に挙げた、
ほとんどの人が漫画を必要としていない人生を送っている。
に、私も入っているわけです。
読んだら面白いのでしょうが、読む余裕がありませんでした。
日常を生きるうえで、漫画を読む優先順位が低くなっていたからです。
表現を仕事にすることの、難しさや厳しさを知った一冊でした。