魔力的なヒロインの恐ろしさ
読後感は良くありません。
かといって、読まなければ良かったとは思っていません。
なぜ、読後感が良くないかというと、
- ヒロイン(以下、田中愛子)に、最後まで嫌悪感があったこと
- 田中愛子を忘れられない主人公(以下、プンプン)が痛々しかったこと
です。
なぜ、田中愛子に嫌悪感があるかというと、プンプンの好意につけこんで、自分の好きなように扱っている感じがするからです。
田中愛子は、プンプンが自分のことを好きだと、わかっています。
自分を好きなプンプンだから、田中愛子はプンプンを好きだと言います。
あたしの幸せだけを考えていてくれるもんね?
(中略)
嘘だったらゆるさないんだから!
などと、時折狂気を見せる彼女に、プンプンは恐怖を覚えます。関わらない方がいいと、どこかわかっているはずです。
理性ではわかっていても、彼女の魔力的な魅力に引き寄せられます。
田中愛子の不遇に、彼女の母親が関わっていると知ったプンプンは、二人で母親との離別を申し出ますが、母親は納得しません。
掴み合いの結果、母親を殺してしまいます。
死体を山奥に埋め、二人は車で九州に向かいます。
プンプンは、罪を償う覚悟や田中愛子と暮らすイメージをしていましたが、田中愛子は人知れず自殺します。
プンプンを散々振り回した挙句、自分だけこの世から消える、田中愛子の狡さ。
残されたプンプンの、行き場のなさ。
プンプンは田中愛子を追って自殺しようとしますが、生き延びてしまいます。
こんなヒロインに惹かれてしまうプンプンは、一体何なのでしょう。
プンプンは、いい意味では優しく、悪い意味では自分がありません。
なのでプンプンは、いいように扱われてしまいます。
いいように扱われる中でも、友人といえる人は、少ないながらもいます。プンプンが田中愛子の母親を殺した後も、付き合ってくれる人たちです。
プンプンの、弱さや痛々しさや自意識過剰さが、伝わります。
同時に、田中愛子との関係を断ち切ってくれと何度も思いました。
死ねなかったプンプンはこれから、周りの人に囲まれながら、生きていくのでしょう。
普通に考えれば生きていけるのは良いことなのでしょうが、プンプンにとってはそうではないかもしれません。
プンプンは、自分の話をあまりしませんでした。友人といえる間柄の人にもです。
ですが自殺未遂以降、自分の話をし始めた様子がうかがえます。
例えば、偶然、小学校時代の同級生に会ったプンプンと友人。
その同級生が小学生のときにどういう人だったのかを、友人は即座に当てます。
それはプンプンが、友人に自分の小学校時代の話をしたからでしょう。
私は、田中愛子を好きになれませんでしたが、プンプンのことは嫌いになれませんでした。
プンプンは、自分の自信がないくせに自己顕示欲は高く、人との距離感をはかることのできない不器用な人間です。
そんなプンプンを愛おしく感じるのは、私と似ているところが確実にあるからでしょう。