いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『零落』浅野いにお(著)の感想【売れることが一番重要か】

売れることが一番重要か

主人公は、30代中盤の漫画家です。

連載が終わっても、次の漫画を描けない漫画家です。

著者の浅野さんと似た境遇なので、主人公が浅野さんと重なって見えます

例えば、主人公の発言、

狭量で懐古主義な漫画ファンたちが漫画業界の首を絞めてる

は、浅野さんがエッセイで同じようなことを書いていました。

過去の漫画ばかりを愛でることが、いかに漫画業界の未来にとって地雷か(『漫画家入門』浅野いにお(著)から抜粋)

です。

編集者にとって、漫画は作品以前に商品なので、売れるかどうかが重要です。

次の作品を描けない主人公への、編集者の態度は冷酷です。

今後の打ち合わせは僕の都合のいい時に編集部まで来ていただければと……

と言われてしまいます。

読者は、次の作品が出ない主人公に対して、

才能枯れたかwwww

漫画を一から見つめ直し出直していただきたいですね。

クソつまらん死ね

などと、SNSで好き勝手に批判します。

主人公は、批判的なつぶやきに感情的になってしまいます。

ただ一人、連載が終わって次の作品を描き出せない主人公を、気に掛けている女性ファンがいました。

その女性ファンは、主人公の漫画だけでなく、インタビュー記事にも目を通し、感想をSNSで送ります

ある日、主人公は、女性ファンに簡単なメッセージを返します。

この女性ファンだけはわかってくれると思ったのかもしれません。

主人公は、売れる作風を取り入れて、次の漫画を描きました

泣けると評判になっていることを報告する書店員に、主人公は、

馬鹿でも泣けるように描きましたから……

今の漫画読者にとっては、この程度の媚びた漫画が丁度いいんでしょうね

娯楽なんて騙したもん勝ちでしょ売れりゃあそれが正義なんですよ

と言います。

主人公の作風が変わっていることに、女性ファンは一切気づくことなく

本当に感動しました

と主人公に言います。

主人公が浅野さんと重なる部分があるとして、連載中の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(以下、『デデデデ』)は、売れる作品にシフトしたのだろうかと考えました。

私にとって、『デデデデ』は娯楽要素が多く、何度も読み返したくなる作品ではありません

浅野さんの漫画を読んでいると、自分の人生に不意に響くことがあります。それが『デデデデ』にはありませんでした。

『零落』を読んで感じたのは、

人にわかってもらったようでも、結局人はわかり合えない

という、はかない現実でした。

とはいえ、私がわかったと思っているだけで、浅野さんの意図とは違っているのでしょう。

どうせ分かり合えないのだとしたら、表現者である作者は、批判を浴びせる多数の見えない人たちをスルーするのが一番の得策だし、読者は自分の思ったことを素直に言えばいいのだと思います。

私は、いずれ『零落』を読み返すでしょう。

零落 (ビッグコミックススペシャル)

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