第164回芥川賞候補作発表
2020年12月18日、芥川賞の候補5作品が発表されました。
受賞作の発表は、2021年1月20日(水)です。
以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。
宇佐見りん『推し、燃ゆ』(文藝秋季号)
初の候補入りです。
前作『かか』で三島賞を受賞しています。
感想はこちらです。
尾崎世界観『母影』(新潮12月号)
初の候補入りです。
マスコミが一番注目する候補作でしょう。
感想はこちらです。
木崎みつ子『コンジュジ』(すばる11月号)
初の候補入りです。
同作ですばる文学賞を受賞しました。
感想はこちらです。
砂川文次『小隊』(文學界9月号)
第160回の候補『戦場のレビヤタン』に続いて2度目の候補です。
感想はこちらです。
乗代雄介『旅する練習』(群像12月号)
第162回の候補『最高の任務』に続いて2度目の候補です。
『本物の読書家』で第40回野間文芸新人賞を受賞しました。
感想はこちらです。
受賞予想
- 勢いがあるのは、宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』
- 話題性が抜群なのは、尾崎世界観さんの『母影』
- 実力のある本命は、乗代雄介さんの『旅する練習』
だと思います。
受賞作を○△×で予想しました。
- 宇佐見りん『推し、燃ゆ』:×
- 尾崎世界観『母影』:×
- 木崎みつ子『コンジュジ』:○
- 砂川文次『小隊』:△
- 乗代雄介『旅する練習』:○
私の予想は、
- 木崎みつ子『コンジュジ』
- 乗代雄介『旅する練習』
のダブル受賞です。
『コンジュジ』は、主人公が厳しい境遇にも関わらず、重すぎないトーンで語られます。
- 主人公の悲惨な境遇
- 今は亡き伝説のロックスターとの妄想
- ロックスターの伝記
が、三重構造になっていて、ロックスターの伝記に主人公が入り込んでいるように感じられるところがあり、読んでいて新鮮でした。今回の芥川賞候補の中で、一番読んで良かった作品でした。
『コンジュジ』木崎みつ子(著)の感想【ロックスターの配偶者】(芥川賞候補、すばる文学賞受賞)
『旅する練習』は、姪との小旅行を、主人公は冷静に記録します。姪の死に近づくにつれて、心の震えを沈めるように書かれた記録から冷静さが失われていくさまが、小説にしかできない方法で表現されていると感じました。
『旅する練習』乗代雄介(著)の感想【忍耐が限界を迎えると】(芥川賞候補)
『小隊』も受賞しておかしくない作品ですが、
- 専門用語が多すぎて読みにくい
- 今起こっている戦争に世間が関心を寄せないのは考えにくい
いった点が気になりました。
『小隊』砂川文次(著)の感想【北海道がロシアから攻められる】(芥川賞候補)
『推し、燃ゆ』は、「推し」や「炎上」が現代的で、世間の興味を引く作品ですが、推しが炎上し芸能界を去った後の主人公の人生が十分に描かれずに終わっているので、投げっぱなしの印象を受けました。
『推し、燃ゆ』宇佐見りん(著)の感想【既視感のある通過儀礼】(芥川賞候補)
『母影』は、なぜ作者が、少女の無垢な性を題材にした作品を書きたかったのかわからなく、作者の手が施されたつくりもののように感じました(小説はつくりものですが、つくっている感が出すぎると、読んでいて冷めてしまいます)。母親のマッサージの仕事に性的な要素があるとわかった主人公が、どう行動するかまで描いてほしかったです。
『母影』尾崎世界観(著)の感想【純粋で繊細な言語感覚】(芥川賞候補)
私が密かに推していた、藤原無雨さんの『水と礫』(文藝冬季号)も新人賞作品ですが、候補作には入りませんでした。
芥川賞を受賞してもおかしくない作品だと思っていたので、候補作に入らなかったのが意外です。野間文芸新人賞か三島賞を受賞したらいいなと思いました。
『水と礫』藤原無雨(著)の感想【小説の外に広がる世界】(文藝賞受賞)
前回までの芥川賞の予想結果は、
第163回:高山羽根子『首里の馬』当たり、遠野遥『破局』はずれ
第162回:古川真人『背高泡立草』当たり
第161回:今村夏子『むらさきのスカートの女』当たり
と、『破局』以外は当たっています。
第164回芥川賞・直木賞を予想した番組、ラジオ日本『大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(予想編)』の感想はこちらです。
第164回芥川賞の結果発表、会見、選評の感想はこちらです。