純粋で繊細な言語感覚
主人公は、小学校低学年と思われる女の子です。
女の子の視点で語られるので、文章は柔らかく、読みやすいです。
部屋を区切るカーテンの手前で、主人公は、カーテンに映る影を見ています。
カーテンの向こう側では、母親はマッサージの仕事をしています。
主人公の言葉で言うなら、
またお母さんが知らないおじさんをマッサージして直してる
です。「直してる」という言葉から、母親はお客さんに「痛いところはありますか?」と聞いているのでしょう。
ここが痛い。お店に来るお客さんは、いつもお母さんにはっきり伝えた
とあります。悪いところを直すのが、母親の仕事です。
ですがある日、お客さんが言った
ここ、あるんでしょ?
に、主人公は「知らないおじさんが探し物をしている」と考えます。
実際は、
- おじさん:性的なサービスを要求する客
- 母親:性的なサービスを一度は断るが、受け入れる従業員
です。
主人公は、お客さんの「あるんでしょ?」「ないの?」の言葉から、
おじさんが探してる物をお母さんがかくしてるにちがいない
と心配します。
主人公は、聞こえる言葉を純粋に受け取ります。
また、言葉の感覚が繊細です。
例えば、クレーンゲームで欲しかったゾウを取れなかったとき、
もし取れた私より、こうして取れなかった私の方が、あのゾウをもっと大事にできそうだった。
と、主人公は感じます。
繊細さを持ち合わせるからこそ、純粋さゆえの無知は、少し無理があるように感じました。
主人公は、男性の股間に何があるかを確かめるため、老人のズボンを下げる行動力があります。
なので、カーテンを挟んだ向こう側で、母親が何やら怪しげなことをしているのであれば、主人公は覗こうとするのではないかと思いました。
ただ、もし主人公が全部を知った上で、自分をだましているのなら、この母子(特に主人公)の悲しみが、より浮かばれる気がします。
ですが、主人公は純粋で無知です。
成長して主人公が無知ではなくなったとき(母親がマッサージの仕事をしながら性的サービスも行っていることを知ったとき)、
- どのように感じ、
- どのような行動をするか
が気になりました。
この母子の今後は、子(主人公)がどう変わるかが重要だと思います。
主人公の担任の教員が母親に、
あなたの遅れがどの程度のものであるかも含め、まず第一にしっかり見極めさせていただきたい
と言いながら、性的サービスを求めるシーンには、やるせなさを感じました。
母親の知能がいくら遅れているにしても、母親が性的サービスのあるマッサージ店で働いている間、娘がカーテンを挟んだ隣にいられる状況があるのは、母親も店側もどうかしてるとしか思えません。
知能の遅れがある母と、純粋に受け取り繊細な言語感覚を持っている主人公。
作者がなぜこの作品を書きたかったのかはわかりませんが、母親の、歪んでいながらも確かに存在する愛情を、感じた気がします。