いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

第164回芥川賞受賞作発表、会見、選評(2020年下半期)の感想

第164回芥川賞受賞作発表

2021年1月20日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。

単独受賞です。

予想は、はずれました。予想はこちらです。

『推し、燃ゆ』が受賞するとは思いませんでした。正直言って、『推し、燃ゆ』と『母影』の受賞はないと思っていました。

『推し、燃ゆ』に、文章のうまさや独自の視点があるのは確かですが、見たことのある光景が描かれていて、内容がどうも浅く感じました

それに比べると、候補作の『旅する練習』、『コンジュジ』、『小隊』は、その作家しか描けない世界観が提示されていて、作品の質も高いと感じました。

ですが、それはあくまで私の読みです。予想をはずし、読みが浅かったわけですから、再読必須です。

受賞に至った経緯、選考委員の選評が気になります。

 『推し、燃ゆ』の感想はこちらです。

宇佐見りんさんの記者会見

終始笑顔で対応されていて、育ちの良さがにじみ出ていました。

  • 最年少で三島賞受賞
  • 綿矢りささん、金原ひとみさんに次ぐ3番目の若さで芥川賞受賞

文学界の新たなスター誕生ですね。

記者会見の質疑応答では、ニコニコ動画ユーザーからの質問と、それに対する宇佐見さんの回答が良かったです。

――(主人公の)診断名を書かないと判断をされていると思うのですが、どんなこだわりがあるのでしょうか。

私としても悩んだところなんですよ。

病院に行くというくだり自体をなくしてしまうこともできたんですよね。
現代でいえば、それ(病気)が自然といいますか、そういうことが周知されてきて、環境によりけりですけど、診断するというくだりがあるのは自然だろうと入れて
明記しなかったのは、いろいろな複合する二次的なものとかがあったりするんですよね。うつ病併発するであるとか。
そういうことを、ただ作品をそれで区切ってしまうのは違うんじゃないかなっていうふうに。もっと何か、違うものとしてとらえてほしくなくて。
読んでいただいた方に、もっと近いものとして感じていただきたかったというのはありますね

ただすごく悩んだところです。

本当に21歳かと思うほど、慎重に、丁寧に、言葉を選んでいる方だと思いました。

主人公に病気があるのに、病名を示さないというのは、気になるところではありました。おそらく精神的な病気だとはわかるのですが、具体的な診断名は出てきません

病気を示し、病名を書かないことについて、宇佐見さんがここまで悩んで出した結論だと知って(病院に行くくだり自体をなくすことを検討されたことから)、病気を安易に持ち出したわけではないのだとわかりました。

選評

選考委員の島田雅彦さんの会見は、NHK及び産経新聞の記事からの引用です。

(NHKの記事からの引用)

2回目の投票で歴然とした差が付き、宇佐見さんがダントツだった

「ヒロインの知識を描く際のことばが非常に鮮やかで、一見思いつきで刹那的に見えるが、かなり吟味された中で繰り出されている。意識の発生の現場報告というか、無意識から発語したときに生まれる独特のぞわぞわした感じが巧みに捉えられている

非常に文学的偏差値が高いというのはポジティブな意味とネガティブな意味があるが、そういう若い才能を後押ししようという雰囲気が支配的だった」

2回目の投票でダントツというと、2回目の投票に上がった他の作品が気になります。『旅する練習』だけでしょうか。ダブル受賞でも良かったのにと思います。

「文学的偏差値が高い」ネガティブな意味って何でしょう。『旅する練習』のことでしょうか(2回目)。文学的偏差値があったとしたら、今回の候補作では『旅する練習』がずば抜けている気がします。ただ、『推し、燃ゆ』と違い、ネガティブな意味になってしまったのかもしれません。

「若い才能を後押し」と聞くと、本当は別の作品が受賞すべきだけど、若さを考慮して受賞というニュアンスに聞こえてしまいます。

(産経新聞の記事からの引用)
『旅する練習』について)コロナ禍が強烈に意識され、語りに力が抜けていてすんなり読める。その波乱やカタルシスのなさが、新しい日常を生きていく上でリアル」と高く評価されたが、「雑多な部分を『捨てられない人』なのでは

確かに『旅する練習』にはあらゆる要素(文学、サッカー、鳥類など)がありますが、雑多な部分とはどこの部分を言っているのか、気になります。

(産経新聞の記事からの引用)
『小隊』について)不可避で理不尽な戦闘は現在のメタファーともとれるが、背景の戦争が見えにくいのは問題

日本がロシアから攻められる経緯が描かれていないのはマイナスってことでしょうね。

(産経新聞の記事からの引用)
『コンジュジ』について)ストーリーテリングの才能は評価されたが、症例報告を超えた文学性に欠ける

「症例報告を超えた文学性に欠ける」とは、私は全く思いませんでした。ロックスターとの妄想だけなら「文学性に欠ける」のかもしれませんが、ロックスターの伝記が重層的に絡み合っていて、小説にしかできない文学的表現だと私は感じました。

(産経新聞の記事からの引用)
『母影』について母子家庭の女子小学生という語り手の設定に「あざとい」などの厳しい意見が相次いだ

作者が大人の男性ですからね。なぜ女子小学生を語り手にしたんだろうって思ってしまいます。

やはり私は、『旅する練習』に受賞してほしかったです。

私の第164回芥川賞の予想はこちらです。

第164回芥川賞・直木賞を予想した番組、ラジオ日本『大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(予想編)』の感想はこちらです。