スターになった親友
主人公の親友が、芸能界でスターになります。
もとは主人公と同じ、エキストラでした。
きっかけは、親友がアドリブで言った、
さっきあっちに走っていったよ
という一言で、俳優の仕事が増え、人気が出ます。
主人公は、人気俳優になっていく親友を、横で見ています。
同じ芸能事務所なので、主人公に親友のバーターとしてのオファーがきますが、断ります。
それらを全て断ったのは、彼の力を借りて仕事をするということにどこか違和感があったからだ。
親友の力を借りたくない主人公ですが、自分の力ではどうしようもできません。
彼といる自分が酷く見苦しい。彼に追い越されてしまったようで、僕はよからぬ思いに苛まれてしまう。
20歳のとき、親友と決別してしまいます。
25歳のとき、親友はスターです。
一方主人公は、バイトをしながら、芸能の仕事を細々とするフリーターでした。
そんな二人が同窓会で再会します。
以下、ネタバレしますのでご注意ください。
同窓会後、親友に誘われ、主人公はバーに行きます。
楽しく話す二人ですが、親友は苦しんでいるようでした。
主人公は、
有名になりたくてもなれなくて。有名になったやつが苦しんで。
と悩みます。
全く変わらない主人公に、親友は、
君はこれから有名になる
と励まします。
しかし翌日、親友は首を吊って自殺します。
嘘だろと思いました。
親友と交流を再開させた主人公が、芸能界を駆け上がって親友と共演する展開かと思ったからです。そうした兆しを、二人の会話から感じとれたからです。
ですが親友は自殺しました。
「君はこれから有名になる」という親友の言葉は、主人公の役者としての伸びしろを評価したのではなかったのでしょう。
スターの友人という肩書で「有名になる」という意味だったのです。
主人公は、自殺した親友のことを書いた本を出版します。
本を原作とした映画が作られ、主演である親友役を、主人公が演じます。
主人公が親友を演じることで、当時親友がどう思っていたか、乗り移るようにわかってきます。
ある意味、主人公は親友と同化し、共演しました。
ただ、それがハッピーエンドだとは、思いませんでした。
結局主人公は、親友のバーターに変わりないからです。
主人公が本を書けたのも、映画の主演を演じられたのも、スターだった親友の友人だからです。
それに、親友の自殺が良いと思えないからです。
一人の人間、それも物語の人間が自殺したところで、私に直接関係はありません。それでも沈んでしまいます。
喜怒哀楽でいうと、哀に近いものが残ります。
親友の自殺、さらに親友の姉も自殺しており、親友の親は生きていけるのでしょうか。
本当に死ぬ必要があったのか、他に救いはなかったのかと、思ってしまいました。
調べた言葉
- 颯然:風を切るさま
- 佇立(ちょりつ):しばらくの間立ち止まっていること
- 洒脱(しゃだつ):俗気が抜けてさっぱりしていること
- 瞥見(べっけん):ちらりと見ること
- 気宇(きう):心の広さ