第三者の介入で崩れる関係性
主人公は、売れない劇作家です。
家賃5万円を支払えず、専門学生の彼女の家に転がり込みます。
彼女の実家から送られた食材を食べる主人公は、
人の親から送られた食料を食べる情けない生きもの。子供の頃、こんな惨めな大人になるなんてこと想像もしていなかった。
惨めだと思うなら、最低限の収入くらい稼ごうよ、と思ってしまいます。
専門学校を卒業した彼女は、実家から仕送りをもらえなくなります。光熱費だけでも払ってもらえないかと主人公に相談しますが、
人の家の光熱費を払う理由がわからない
と、主人公は苦しまぎれの言い訳をします。
人の家の光熱費払う人いないよね、うけるー
と返す彼女が、なんとも哀れに感じました。
それでも彼女は、二人で住む家を、
ここが一番安全な場所だよ!
と言います。
主人公は生活費を払わない家で、サッカーゲームに興じます。
劇団にさほど人気が出ることもなく、先の見通しのないまま、月日は流れます。
なんでそんな男と一緒にいるんだ? 早く別れた方がいい。
彼女の知り合いは、二人を引き離そうとします。確かにそのとおりです。
純粋で無垢な彼女が、主人公の都合の良い存在として扱われている感じがするのです。
ただ、彼女は主人公のことが好きで、尊敬しているようでした。貧しくても日常を楽しませてくれる主人公は、彼女にとって必要な存在でした。
ですが、周りは許しません。主人公のことを良く言う人は、彼女の他に誰もいません。
主人公と彼女の周りに、二人の関係を知る人間がいなかったなら、仲良く暮らしていたのかもしれません。
第三者の存在が、二人の間を引き裂きます。
彼女は、酒の量が増え、精神的に崩れていきます。
主人公が「一番安全な場所」を離れると、他の人間が彼女に近づきます。
周りの人たちは、主人公を悪く言ったのでしょう。流された彼女は、バイト先の店長の家に行きます。
主人公はクズです。働きもせず、才能がないのにプライドは高く、自分以外の意見を受け入れない人間です。
彼女は東京での生活に耐えられなくなり、一旦実家に帰ります。地元で就職先を見つけると、とうとう主人公と離れることになります。
主人公は自らの行動を後悔するのでしょうか。いや、しないでしょう。
主人公も、彼女も、互いに必要な存在ではありました。
しかし、第三者の介入で崩れていきます。
- 弱みに付け込む人間(バイト先の店長)も、
- 弱い人間(彼女)も、
- 弱くさせる人間(主人公)も、
とにかく嫌で、苦しかったです。
ですが私は、主人公と彼女の幸せを、全く関係ない他人なのにも関わらず、願っていました。
主人公のことを悪く言う人たち。それを受け入れてしまう彼女。実際クズの主人公。
それでもやはり、関係ない他人が、間に入ってああだこうだ言うべきではないのだと思いました。
この人たちがいなければ、主人公と彼女の関係は違っていたのかもしれません。
とはいえ、主人公と一緒に住み続ける彼女の未来は明るくなさそうで、やはり別々になるのが良かったのかもしれないと思いました。
それに、第三者の介入で崩れる関係性は、いずれ破綻するに違いありません。
彼女には、「売れない劇作家との生活は楽しかったけど、今がやっぱり幸せ」と思えるような生活を送ってほしいです。
調べた言葉
- 標榜(ひょうぼう):主義、主張を公然とかかげ示すこと
- ソフィスティケート:都会的に洗練すること