母が別荘を買った
母がマンションを買いました。
住居用ではなく、別荘用です。
ですが、別荘というより秘密基地に近いです。
1LDKの秘密基地。
その場所に行くには、曲がりくねりながら登っていく山道を、車で走らなければいけません。
道のイメージは、「箱根駅伝の山登り(5区)の道」から「鬱蒼と茂る草木」をなくした感じです。
登った先の、
- 右手(海側)には母のマンション
- 左手(山側)には格の違う高級マンション
があります。
高級マンションの駐車場には、ベンツ、レクサス、BMWなど、高級車が並んでいます。
見上げると、ガラス張りになっているラウンジの窓際に、遠方を眺めて立っているスーツ姿の男性の姿があります。見上げているこちらには見向きもしません。
母のマンションの駐車場にあるのは、タイヤがすり減り、ボディの赤色が褪せた原付バイクだけです。おそらく管理人のものでしょう。
格差が甚だしいですが、マンションを管理する人間がいるだけ、ありがたいと思います。
それに、母の秘密基地の大きな窓からも、海が見えます。
標高が高いので、水平線を見下ろせます。
標高の高さは、日差しの強さも関係しているのか、12月でも暖房いらずです。
道を挟んだ向かい側の高級マンションには劣るでしょうが、母は劣等感を抱いているようには見えません。十分だからでしょう。確かに十分です。
母は金持ちだからマンションを買ったのではありません(扶養内で働いており、高所得者ではありません)。
金持ちでなくとも購入できたマンションですが、それでも不動産を購入するというハードルはあります。簡単にポンと買えるものではありません。
では、なぜ買ったかというと、
「海が見えるマンションに住んでみたい」
これに尽きるそうです。
- 日々、ネット上の不動産の物件情報を練り歩き、
- 良さそうな物件があって不動産屋に電話をするも、雑な対応にいらだち、
- いざ内見をしても物件に納得できず、
を繰り返しているようでした。
その末にたどり着いた1LDKの秘密基地です。
購入までの心理的な道のりが、物件までの物理的な道のりと一致しています。
「やりたいこと」があって、「そのために何をするか」を実行し続けるシンプルさ。
感心を抱く一方で跳ね返ってくるのは、私のやりたいことは何だろう。
太陽の日差しと海から反射される光を白いカーテンで遮っても、思考は逃げさせてくれません。
「働きたくないなあ」
思わず出た独り言は、誰に聞こえるわけでもないですが、自分だけには聞こえています。それを現在の私も認識していて、つみたてNISAを解説する動画の海をさまよいながら、それでも一応泳いでいます。